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『マルティネス』老いという視点を超えて、孤独と変容を優しく包む物語

© 2023 Lorena Padilla Bañuelos

『マルティネス』老いという視点を超えて、孤独と変容を優しく包む物語

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コロナ禍の撮影によって、その思いは普遍的な域へ



 前述の通り、当初は実父をモデルに主人公像を創り出したパディージャ監督であったが、本作の製作中には彼女自身も様々なことを経験した。特に夫との離婚は人生における大きな転機であり、精神的に辛く、様々な面で意識して変わらねばならないことも多かったという。「新たな自分を受け入れて生きていく」という上では、監督自身もまた、マルティネスそのものだった。


 加えて、本作がコロナ禍に製作されたことも作品に決定的な特色をもたらした。人々が、触れ合いたくとも触れ合えず、孤独でいることを強いられた時代のことを、世界中の誰もが昨日のことのように覚えている。マルティネスの抱える孤独、またはそこから「人と触れ合いたい」と変わりゆく心情は、我々の共通記憶を大いに刺激し、他人事とは思えないほどの頷きとなって沁み渡っていく。



『マルティネス』© 2023 Lorena Padilla Bañuelos


 本作はかくも不思議なタッチで、老いの切実な孤独から始まり、誰もが身に覚えのある普遍性をぐるりと経由しながら、いつしかその絶えざる川の流れを夕暮れ時の美しい水辺へと注ぎ込ませる。序盤では息苦しさを感じるほど狭苦しく構成された映像が、今では見晴らしよく、胸がすくほど穏やか。その視野の広がりといい、あらゆるものから解放された表情といい、冒頭の主人公とはまるで別人である。


 おそらくこの映画が幕を閉じる頃には、マルティネスが高齢者の象徴だなんて誰もが感じなくなっているはず。彼の過去は意外なほど明かされないが、だからこそ我々は彼の無記載の”人となり”に自分自身を投影しながら、シンパシーを深めることが可能なのかもしれない。


 その結果、この痛烈なれど優しい作品が出来上がった。世代、性別などもはや関係ない。これはすべての人に開かれた映画だ。マルティネスは今や私であり、あなた自身でもあるのだから。



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。




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『マルティネス』

新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー中

配給:カルチュアルライフ

© 2023 Lorena Padilla Bañuelos

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