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『ベスト・キッド:レジェンズ』リブートと続編が共存する新たな映画の地平

『ベスト・キッド:レジェンズ』リブートと続編が共存する新たな映画の地平

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空手とカンフー、二つの枝を一つに



 「ベスト・キッド・ユニバース」を『レジェンズ』に統合するにあたっては、ひとつ大きな問題があった。原題の「The Karate Kid」が示すとおり、オリジナル版に登場する武術は空手だが、リブート版ではカンフーに変更されている。天下のジャッキー・チェンが登場するのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、これでは「The Kung Fu Kid」だ。『スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム』が異なる世界線をひとつにまとめる必要があったように、『レジェンズ』は異なる武術をひとつにまとめる必要があったのである。


 それを踏まえたうえで、脚本家のロブ・ライバーは見事な解決策をひねくりだした。『レジェンズ』のオープニングは、『ベスト・キッド2』(86)のワンシーンで始まる。ここでミヤギは、自身の先祖が中国でハン家に出会い、カンフーを学んで空手として広めたという経緯を明かす。すなわち空手とカンフーは「異なる枝でありながら、同じ根を持つ木」(Two branches, one tree)であるというのだ。わずか数分のイントロダクションで、別々の宇宙にあった物語が鮮やかに一つへと統合される。


 かくして物語は、ベン・ウォン演じる主人公のリー(どうでもいいことだが、顔がちょっと俳優の岡山天音に似ている)が、カンフーの師匠ミスター・ハン、空手の師匠ダニエルから共に武術を学ぶという、胸アツ展開に。2つの武術をマスターすることで、「ベスト・キッド・ユニバース」は完全に一つの世界線に収まったのである。



『ベスト・キッド:レジェンズ』


 もちろん『レジェンズ』は、単体の娯楽映画としても十分に楽しめる。老若男女が楽しめる、痛快エンターテインメントだ。しかしシリーズ全体を見渡すと、その物語構造は大枠を維持しながら、時代に応じて少しずつアップデートされてきたことがわかる。ざっくりシリーズの構成を書き出してみよう。


オリジナル版

①主人公が国内で引っ越しをする

②主人公にすぐ彼女ができる

③主人公が強い奴にからまれる

④主人公が師匠と出会う

⑤主人公が修行して強くなる


リブート版

①主人公が海外に引っ越しをする

②主人公にすぐ彼女ができる

③主人公が強い奴にからまれる

④主人公が師匠と出会う

⑤主人公が修行して強くなる

⑥主人公が大会に勝つ


『レジェンズ』

①主人公にはすでに師匠がいて、すでに主人公はそこそこ強い

②主人公が海外に引っ越しをする

③主人公にすぐ彼女ができる

④主人公が強い奴にからまれる

⑤主人公が彼女の父親を特訓する

⑥父親が負ける

⑦主人公が2人の師匠と一緒に特訓する

⑧主人公が大会に勝つ


 この3作を通して浮かび上がるのは、シリーズ全体のテーマが「個人の成長」から「異文化への適応」、そして「他者の成長」へと段階的に拡大していることだ。「ベスト・キッド・ユニバース」は時代に呼応して、常に進化を遂げているのである。





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