2025.09.08
『ベスト・キッド:レジェンズ』あらすじ
17歳の高校生リーは北京でハン師匠からカンフーの指導を受けていたが、最愛の兄を襲った不幸な出来事の後、母親と共にNYに移住。悲しみから抜け出せず、戦うことを封印したリーに手を差し伸べたのは、クラスメイトのミア。唯一心を許せるミアとの友情を育んでいた矢先、ミアの昔の恋人で、NYの格闘トーナメントを制する絶対王者のコナーに恨みをかってしまい、ミアも家族も巻き込む大きなトラブルを招いてしまう。大切な人を守るために再び戦うことを決意するリー。彼に力を貸すのはカンフーの師匠ハンと空手の達人ダニエル。戦い方も哲学も異なる2人のレジェンドから格闘スタイルを学んだリーは、新たな極みに達した〈真のファイター〉として、究極の格闘大会に挑む。
Index
リセットからマルチバースへ。ハリウッド映画の新ルール
ハリウッドにおいて、人気映画のリブート版が作られることは決して避けられない。「バットマン」や「スーパーマン」などのアメコミ、「ハロウィン」や「悪魔のいけにえ」などのホラー、「スター・トレック」や「猿の惑星」などのSF。ジャンルを問わず、巨大IPはブランド価値を維持するために何度も再生産され、永遠にファンを魅了し続ける。もはやそれは運命なのだ。
リブート版が作られるにあたっては、ひとつの掟がある。オリジナル版から移行したその瞬間、製作者の手によってリセットボタンが押され、かつての物語が露の如く消えて失せてしまうことだ。新しい宇宙を誕生させるには、古い宇宙は抹消されなければならない。続編ではなくリブート版として語り直すというのは、つまりそういうことなのだ。
だからこそ我々は、「スーパーマン」でクラーク・ケントがロイス・レインと恋に落ちる瞬間を繰り返し目撃し、「スパイダーマン」でベン叔父さんが命を落とす場面を何度も体験する。もちろん、オリジナル版とリブート版のキャラクターは、決して同一宇宙に存在してはならない。それは対消滅によるIPの終焉を意味する。この鉄の掟に従って、人気シリーズは延命をはかってきた。
『ベスト・キッド:レジェンズ』
だが、J・J・エイブラムスがリブートした『スター・トレック』(09)あたりから、様相が変わってくる。過去へのタイムトラベルによって、オリジナル版のスポックとリブート版のスポックが顔を合わせるという事態が発生。観客の度肝を抜いた。
決定打となったのは、やはり『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21)だろう。トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランドという三世代のスパイダーマンが共演する夢の展開に、ファンは大熱狂。『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(22)でも、「ジュラシック・パーク」と「ジュラシック・ワールド」両シリーズのキャラクターが勢揃いした。
いまや、過去の物語と新シリーズを同じ世界線として統合する手法がトレンド。もちろん、日本映画でもその潮流は見られる。たとえばリブート版と銘打たれた『新幹線大爆破』(25)が、実はオリジナルの正統な続編だったという仕掛けが用意されていた。そして『ベスト・キッド:レジェンズ』(25)も、この系譜に連なる作品である。
ミスター・ミヤギ(ノリユキ・パット・モリタ)の教えによって、主人公ダニエル(ラルフ・マッチオ)がメキメキと強くなっていくオリジナル版(ただし『ベスト・キッド4』はヒラリー・スワンク演じるジュリーが主人公)。北京に引っ越した少年ドレ(ジェイデン・スミス)が、ミスター・ハン(ジャッキー・チェン)からカンフーを伝授されるリブート版。そして、オリジナルの公式続編として制作されたテレビシリーズの『コブラ会』(18〜25)。
『レジェンズ』は、これらすべての「ベスト・キッド・ユニバース」を一つの作品にパッケージングした、リブートかつ続編映画なのだ。