2025.09.08
過去と未来をつなぐ架け橋
1984年のオリジナル版では、主人公ダニエルがニュージャージーからカリフォルニアへ引っ越し、ミスター・ミヤギから空手を学んで大会で優勝するという、王道のヒーローズ・ジャーニーが描かれていた。ワックスがけやペンキ塗りを繰り返す彼の努力に観客は共感し、その成長に胸を熱くしたのだ。
2010年のリメイク版では、主人公ドレがアメリカから北京に移り住む。国内から海外へと舞台はスケールアップし、物語も単なるカンフー修行にとどまらず、異文化の壁を乗り越える成長物語へと深化。新しい環境に悪戦苦闘しながらも適応していく姿を、観客は目撃することになる。
そして『レジェンズ』では、主人公リーが北京からニューヨークへ移住する。興味深いのは、彼がすでに熟練のカンフー使いであるという点だ。物語の焦点は「自分をどう強くするか」ではなく、「その力をどう他人に役立てるか」へと移っている。ガールフレンドの父親を鍛え上げるエピソードは、自己完結型のヒーロー物語から、人とのつながりを描く群像劇への転換を象徴するものだ。さらに、リーがダニエルとハンという2人の師から学ぶ点も大きい。
『ベスト・キッド:レジェンズ』
オリジナルの精神を継ぐダニエルの空手は“規律と伝統”の象徴であり、リブート版の系譜を継ぐハンのカンフーは“自由と革新”の象徴。二つの異なる教えを同時に学ぶことは、単一の価値にとらわれず、多様な文化を受け入れることそのもの。言い換えればリーは、「ベスト・キッド・ユニバース」をひとつにまとめる象徴的な存在であり、観客が異なる世界観を行き来するための“架け橋”なのだ。
今回の舞台にニューヨークが選ばれたのも、非常に象徴的だ。この街は世界でも有数の多民族都市であり、移民やさまざまな文化的背景を持つ人々が共存している。リーがこの都市に移住するという設定は、自然と「多様な人々や価値観に触れる」という文脈を生み出している。北京→ニューヨークへの移動は、単なる地理的変化ではなく、異なる文化との接触を象徴する舞台転換なのだ。
異なる武術の共存。舞台設定。主人公像の変化。『レジェンズ』は単に過去作を統合するだけでなく、シリーズ自体を「多様性を描く物語」へとアップデート。強さとは己を高めることだけではなく、他者と文化をつなぎ、異なる価値観を受け入れ、共に成長することにあるということを教えてくれる。
ありがとうミスター・ミヤギ。ミスター・ハン。ミスター・ダニエル。今から僕も床磨きとワックスがけをして、もう一回り大きな人間になりたいと思います。
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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『ベスト・キッド:レジェンズ』
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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