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『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』時代を超えて評価されるべき、アルバムをそのまま映画化する稀有な挑戦

(c)Photofest / Getty Images

『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』時代を超えて評価されるべき、アルバムをそのまま映画化する稀有な挑戦

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製作中の衝突も監督のセンスは全開に



 すでに存在している音楽に、さまざまなイメージの映像を合わせつつ、ひとつの物語の流れを作る。この『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』の並大抵ではないチャレンジをクリアした要因に、監督の功績が挙げられるだろう。アラン・パーカーだ。本作の前に初監督の『ダウンタウン物語』(76)、『フェーム』(80)というミュージカル的要素のある作品を成功に導いていただけあって、音楽と映像を組み合わせるセンス、編集の才能はハイレベルであることを証明。パーカーは監督進出の前に『 小さな恋のメロディ』(71)の脚本で名が知られるようになったが、やはり音楽が重要な魅力となった同作で、すでに多くのシーンの演出にも参加していた。前述した「Another Brick in the Wall」のシーンでは、校長が両手で自身の上着の襟を掴む癖、生徒たちの反乱など、『小さな恋のメロディ』と重なる描写を発見できる。パーカーは『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』の公開時、「映画手法の点で、かつて試みたことのないことをすべてやったとは思わないが、少なくともこれまでにやった手法をすべて使った」(劇場パンフレットより)と、その挑戦を語っている。


 自身もピンク・フロイドのファンであることを認め、本作には最適だったはずのアラン・パーカーも、ピンク・フロイドのメンバー(ボーカル・ベース)で、本作の脚本に深く関わったロジャー・ウォーターズとは製作中に何度も衝突。何度か監督を降りようとしたらしい。その混乱を引きずったまま完成した作品に対し、ピンク・フロイドの他のメンバーはおろか、監督のパーカーや、ジェラルド・スカーフまでが不満を爆発させるという事態になった。



『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』(c)Photofest / Getty Images


 そもそも主人公のピンクに、ロジャー・ウォーターズは自らを投影し、自分で演じることを構想していたようだが、スクリーンテストでその構想は却下された。DVDの特典映像でパーカーは「ウォーターズは役に近すぎたため」と、その理由を語っている。結果的にピンク役を演じたのはボブ・ゲルドフだが、その彼も演技未経験のミュージシャンだったことが、ウォーターズの神経を逆撫でしたと思われる。ブームタウン・ラッツのボーカルとして知られるゲルドフは、その後、いくつかの映画に出演したが、俳優としての代表作は『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』に尽きる。むしろゲルドフは、1985年のライヴエイドの主催者として語り継がれている。『 ボヘミアン・ラプソディ』(18)で、ゲルドフにそっくりの俳優(ダーモット・マーフィー)が彼を演じたことも記憶に新しい。


 このように書いていくと『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』は世紀の失敗作、あるいは珍品と勘違いされるかもしれない。しかし監督アラン・パーカーのセンスが活かされた映像と音楽の究極のケミストリー、ボブ・ゲルドフのカリスマティックな渾身の演技、そして半世紀近く後の現在(2025年)を予感したようなテーマの発見……と、作り手たちの意図を、いい意味で超えた傑作として改めて評価されるべきだろう。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。



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