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『ファンファーレ!ふたつの音』人間の可能性と尊厳を謳う良質な人間ドラマ

© 2024 – AGAT Films & Cie – France 2 Cinéma

『ファンファーレ!ふたつの音』人間の可能性と尊厳を謳う良質な人間ドラマ

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本作が超えていく3つの壁



 筆者には、『ファンファーレ!ふたつの音』(24)は3つの壁を乗り越えようとする作品だと感じられた。一つは音楽の壁。ここにはなんと言ってもクラシックからポピュラーな歌謡曲に至るまで、宝石のように散りばめられた選曲のうまさがある。オーケストラとブラスバンド、それぞれの伝統と誇りに光を当てつつ、両者の違いを軽やかに越えようとする趣向もある。どの場所、どのタイミングでいかなる曲を響かせるのかという面で、音楽そのものが絶妙に機能していく過程も実に面白い。


 二つ目は個人の壁。人はいかにして道を選択し、自らの意志や才能を活かして前に進んでいくことができるのか。幸いにも兄はこれまで幾度も選択の機会を手にしてきた。しかし弟はどうだろう。ふと、なんらかの決断の機会に見舞われた時、彼はいかにして自分の役割を見出し、あらゆる葛藤や感情を乗り越えて、全てを投じることができるだろうか。


 その瞬間に向けて弟を導き、支えるのは兄に与えられた使命でもある。ほんの紙一重の運命で生き別れた彼らは、お互いに「ありえたかもしれないもう一人の自分」とでもいうべき存在。それゆえ、この映画はまるでバラバラになった響きをもう一度、一つに重ねて響かせようとするかのように、兄と弟の双方に勇気を与えていく。



『ファンファーレ!ふたつの音』© 2024 – AGAT Films & Cie – France 2 Cinéma


 そして本作は、社会的な壁をも直視させる。経済格差や、地域格差、そして産業の衰退によってコミュニティそのものが揺らいでいるケースも多い昨今。それによって人間の尊厳が著しく傷つけられている。これはフランスのみならず、今や世界中が瀕している分断の問題とも言いうるものだ。


 本作は政治的な要素をいっさい持ち出すことなく、全てを音楽の高鳴りに託した上で、人が他者の痛みに寄り添い、魂を一つに、壁を越えようとするビジョンを指し示そうとする。


 立場は違えども、それぞれが楽器を持ちそれぞれの音を奏でる。それがハーモニーを生み出し、壮大で胸に轟くファンファーレとなっていく。クールコル監督は二人の兄弟の姿を通じて、そんなあるべき社会の形を希求しているように感じられた。


*1)参照資料

https://www.boxofficemojo.com/release/rl219971585/weekend/



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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作品情報を見る



『ファンファーレ!ふたつの音』

新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中

配給:松竹

© 2024 – AGAT Films & Cie – France 2 Cinéma

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