
©-MACT PRODUCTIONS-LE SOUS-MARIN PRODUCTIONS-INA-PANTHEON FILM-2024
『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』永遠に若返る巨匠の肖像
2025.09.22
『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』あらすじ
映画の歴史を変えた音楽家の人生の軌跡と最後の舞台に迫る圧巻のドキュメンタリー。『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』等の映画音楽で知られ、アカデミー賞®受賞3回、手掛けた映画は200本以上。唯一無二の音楽家ミシェル・ルグラン。その知られざる人生のすべて──
Index
ジャズする映画音楽家、ミシェル・ルグラン
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(21)、『ハンス・ジマー 映画音楽の革命児』(22)、『ジョン・ウィリアムズ/伝説の映画音楽』(24)。映画音楽界のレジェンドを描いた最近のドキュメンタリーは、恋したり革命を起こしたり伝説になったりと、目まぐるしい。そして今年、新しくラインナップに加わったのが『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』(24)である。
ミシェル・ルグランは、映画音楽の歴史に燦然と名を刻む巨匠だ。アカデミー賞を三度受賞し、200本以上のサウンドトラックを手がけただけでなく、ピアニスト、指揮者、編曲家、そして歌手としても活動した多才な音楽家。『シェルブールの雨傘』(64)、『ロシュフォールの恋人たち』(67)、『華麗なる賭け』(68)、『愛のイエントル』(83)といった作品で紡ぎ出した旋律は、観客の胸にすっと入り込み、映画そのものを魔法のように輝かせてきた。
筆者自身、ミシェル・ルグランを長く聴き続けてきた。映画音楽はもちろんだが、その真骨頂はジャズにある。本人も映画の中でこう語っている──「ジャズというのは即興の芸術だからね。私がジャズで好きなのは、予想していなかった楽しみが生まれることだ。それがジャズのすばらしさであり、喜びでもある」。自由闊達な彼のサウンドは、ジャズというスポーティーなジャンルでこそ躍動する。
『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』©-MACT PRODUCTIONS-LE SOUS-MARIN PRODUCTIONS-INA-PANTHEON FILM-2024
ルグランが奏でる音楽は、マイルスのクールな都会の哀感とも、コルトレーンのストイックな求道心とも、エヴァンスのリリカルな輝きとも違う。彩り豊かで華やか、カラフルでドラマチック。軽妙洒脱なそのサウンドは心を軽やかに解き放ち、日常の景色をまるで映画のワンシーンのように変えてしまう。
特に1958年に録音されたアルバム『Legrand Jazz』は、ニューヨークで総勢31名ものトップ・ミュージシャンを集めて制作された豪華盤だ。「ラウンド・ミッドナイト」、「ジャンゴ」、「ワイルド・マン・ブルース」といったスタンダード・ナンバーは、クラシックのように豪奢なアレンジと浮き立つリズムによって、かつて聴いたことのない鮮やかな音色に染め上げられている。
そんな骨の髄まで小粋な“ミスター・ルグラン”のドキュメンタリーとあらば、楽しくないはずがない。実際、この映画はオープニングから高揚感MAX。『ロシュフォールの恋人たち』のBGMとして有名な「Arrivée des camionneurs」(キャラバンの到着)の軽快リズムで幕を開け、ソール・バスやモーリス・ビンダーを彷彿とさせる’60sなタイトルデザインにワクワクさせられる。
しかも、映画に登場するミュージック・ジャイアントたちの名前が豪華すぎ。ヘンリー・マンシーニ、クインシー・ジョーンズ、スタン・ゲッツ、オスカー・ピーターソン、スティング!すでに鬼籍に入った偉大な作曲家を追悼するドキュメンタリーのはずなのに、画面は死の影よりも生のエネルギーで溢れている。ルグランの音楽はいつだって後ろを振り返ることなく、未来を見据えているのだ。