2025.10.02
ノスタルジー、ポップカルチャー、そしてアイデンティティ
この映画は多層な響きを持っている。前情報や先入観もなくニュートラルに触れた時、まずこみ上げてくるのは、むせ返るほどの強烈なノスタルジーだろう。
90年代に思春期を送った人なら、本作に詰まったカルチャーの香りにたまらないものを感じるはず。特にテレビをめぐるあれこれは格別だ。ブラウン管の手触りには独特の温もりと異様さがほとばしり、ザッピングの際に通過する砂嵐には陶酔的かつ魔術的な何かがあった。オーウェンとマディの絆を深めるVHSにも懐かしさが溢れる。
そんな中で登場する架空のティーン向けドラマ「ピンク・オペーク」は、どことなくチープな手作り感がありながら、それでいて妙にリアルで、子供の心に生々しいインパクトを刻む。
『テレビの中に入りたい』© 2023 PINK OPAQUE RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
彼らにとって同番組は間違いなく人生の中心だ。でものめり込んでいるのは二人だけで、他の同級生は見向きもしていない模様。一体何がこれほど彼らの心を掴むのか。そこには二人にしか見出せないビジョンやコードが隠されているのだろうか。そしてある種の靄に包まれた子供時代が終わる時、彼らの身には何が起こるのか。
なかなか答えが見通せないまま、なんとも形容しがたい精神状態が紡がれていく。それも2年後、8年後、20年後…と、あまりに長期かつ鮮烈なスパンで。