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『ホーリー・カウ』悩んで葛藤しながら熟成していく、まるでチーズのような”カミング・オブ・エイジ”物語

© 2024 - EX NIHILO - FRANCE 3 CINEMA - AUVERGNE RHÔNE ALPES CINÉMA

『ホーリー・カウ』悩んで葛藤しながら熟成していく、まるでチーズのような”カミング・オブ・エイジ”物語

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 本作の英題"Holy Cow"とは「なんてこった!」という驚きや衝撃を表す言葉である。フランス語の原題だと"Vingt Dieux(舞台となる地域の言い回しで、直訳すると「20の神々」)"。この物語が国境を超えて世界へ広がりゆく時、本作を象徴するのにぴったりな「Cow」という言葉がタイトル内に出現するのは非常に面白い。


 監督はまだ無名の新人、舞台は農村、キャストは地元の演技未経験者ばかり。それなのに本国で100万人を超える観客を動員したのだから、まさに「なんてこった!」な成功を掴み取った一作である。


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農村で成長する若者たちの姿を描く



 物語はパワーとエネルギーが有り余った若者たちの無軌道な暮らしぶりから始まる。とことん飲んだくれる。村の祭りで下半身をあらわにする。異性と寝ることだけが頭の中の煩悩の全て。そんな状況がずっと続くかと思いきや、18歳の主人公トトンヌの日常はある日、思いがけない形で現実へと揺り戻される。これまで男手ひとつで子供たちを養ってきた父が飲酒運転で樹木にぶつかり亡くなったのだ。その瞬間、突如として一家の働き手となることを余儀なくされた彼。これからどうにかして7歳の妹を養っていかねばならない。だが問題は山積みだ。仕事はわからないことだらけ。周囲とは揉め事ばかり。遊びたいのに遊べない。イライラする。何よりも生活費が足りない。そんな中、地元の特産品であるコンテチーズのコンテストの存在を知るのだが…。



『ホーリー・カウ』© 2024 - EX NIHILO - FRANCE 3 CINEMA - AUVERGNE RHÔNE ALPES CINÉMA


 手掛けたのは、映画学校の卒業制作作品がカンヌのシネフォンダシオン(若手育成部門)グランプリに輝いた経験を持つルイーズ・クルヴォワジエ監督。本作の舞台、フランス東部のジュラ地方は自身がもともと生まれ育った地域だと言う。彼女は高校進学時に故郷を離れ、その後は映画の道を選んだわけだが、周囲には村にとどまり、早くから親の仕事を手伝い、様々な苦労を抱えながら村と共に生きることを選んだ友人たちがいた。本作でスポットライトを浴びるのはまさに彼らだ。


 クルヴォワジェ監督は、こういった題材を従来の映画でありがちな農村に対する美化やステレオタイプとしてではなく、自分がよく知る現実として鮮明に、丹念に描き出す。そこにはかつて二つに分岐した「(映画監督としての)今の自分」と「あり得たかもしれないもう一つの人生」を統合しようとする思いすら込められているかのよう。


 もしかすると観客の多くは、物語の流れ的に「ラストで大逆転」「成功を掴む」という夢物語を期待するかもしれない。でも核心はそこではない。本作が提示するのは、もっとリアルで、この地の厳しさと美しさが同居した、地に足のついたカミング・オブ・エイジ物語なのだ。





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