2025.10.24
フレデリック・ワイズマンへの敬意
一見、何もない原っぱのような映画に見えて、実はその構造は堅実。その上、野球に明るくない人でも、自分の大切なものに置き換えたりしながら、この映画の本質をしっかりと受け止めることができる。『さよならはスローボールで』はさりげなくも忘れがたい、優れた一作だ。
ちなみに高名なドキュメンタリー監督フレデリック・ワイズマン(2025年現在、95歳!)もラジオ内のDJ役として声の出演を果たしている。これはひとえにカーソン・ランド監督から巨匠へ捧げたリスペクトの現れであり、ワイズマン監督の作品スタイル*を知っている者にとっては、本作がいかに彼から影響を受けているかが自ずと伝わってくるポイントだろう。
*ナレーションや意図的な話の流れを徹底して排除し、被写体となる集団や場所そのものをじっくり写し撮り、提示する。
実は、ランド監督はワイズマンに当初フラニー役をオファーしたそうで、さすがにスケジュールが合わず、これは叶わなかった。でもどうだろう。逆に、あからさまなリスペクト表明にせず、わかる人にだけわかるお楽しみにしたのは最良の判断だったと思う。

『さよならはスローボールで』Ⓒ 2024 Eephus Film LLC. All Rights Reserved.
その上、結果的にフラニー役を演じたクリフ・ブレイクの味わいがたまらなく良かった。森から現れ、森に消えていくフラニーは、文字通りの最後の見届け人であり、この物語のいわば精霊的な位置付けでさえあるように感じる。
彼が引用する「今日、私は自分をこの世で最も幸せな男だと思っているのです」(1939年、ルー・ゲーリッグの引退スピーチより)という穏やかでありつつ芯のある言葉の響きが、終幕後も、
私の胸中にずっと小さな温もりを灯し続けている。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『さよならはスローボールで』
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
配給:トランスフォーマー
Ⓒ 2024 Eephus Film LLC. All Rights Reserved.