© 2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.
『KILL 超覚醒』「インド映画史上最も暴力的な映画」が目指したもの
2種の格闘スタイルが激突
この映画を観る者は、まず何よりも、肉体を駆使したアクションの見事さに目を奪われる。そして格闘スタイルに敏感な人であれば、スタイルが2種に分かれているのに気づくかもしれない。アムリトとヴィレシュ役のふたりの俳優は、対テロ特殊部隊の隊員を演じるべく、イスラエルで考案された近接格闘術クラヴマガや、フィリピンの近接格闘術ペキティ・ティルシア・カリなどの軍事戦闘訓練を受けた。他方、ダコイトのメンバー役の俳優たちはストリート・ファイトのスタイルである。
洗練されて合理的な格闘術とストリート・ファイト、この2種のスタイルが、列車内の狭い空間で激突する。所持している武器はせいぜいナイフぐらいなので、逃げ場のない接近戦が連続する。基本的にキャメラも非常に近い位置にある。そのため、わたしたち観客もまた逃げ場のない感覚を共有することとなり、没入感が高められる。つけられている音もリアルで迫真性があり、暴力行為を触覚的に想像させる。

『KILL 超覚醒』© 2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.
列車の空間を活用
列車の話に戻ろう。この映画のアクションの視覚的面白さは、言うまでもなく、列車内という限定的な狭い場所で展開されることから来ている。これだけのアクションを撮影するとなれば、列車内部は当然セットである。「トランスフォーマーのように」分解したり組み立てたりできるセットだったと、監督はインタビューで説明している。部分部分を動力や人力でスライドしたり、天井にレールをつけてキャメラを動かしたりといった工夫がセットには施されていた(注1)。照明にも工夫がある。監督によれば、インドの列車内は実際はもっと明るいのだが、映画が進むにつれて物語の雰囲気に合わせ、照明をさらに暗くしていったとのことだ(注2)。
ところで、列車通路のような狭い空間で展開されるアクションと言えば、近年では韓国映画の得意技。そこで目を惹くのは、アクション監督に韓国出身のオ・セヨンがクレジットされていることである。オ・セヨンはパク・チャヌクの『復讐者に憐れみを』(02)やナ・ホンジンの『哀しき獣』(10)でそれぞれスタント・コーディネーターとアクション監督を務め、近年は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15)などで国際的に活躍。この映画でともにクレジットされているパルヴェーズ・シャイフとは、『WAR ウォー!!』(19)や、サルマーン・カーン主演の『タイガー 裏切りのスパイ』(23)でも組んでいる。そして何よりオ・セヨンは、まさに列車が舞台であるポン・ジュノの『スノーピアサー』(13)に関わっているのだ。とはいえ彼自身は、『スノーピアサー』ではポン・ジュノが明確なヴィジョンを持っていたので、自分が行なったのは多少の実際的助言だけであり、何よりもこの2本はアクションの感触がまったく違うから、単純に比較はできないと述べている(注3)。バート監督によれば、この映画に対するオ・セヨンの貢献は非常に大きく、ある決定的に重要なシーンで、もともとはもっと離れていることになっていたアムリトとトゥリカを、車両間の扉のガラス1枚を隔てて向かい合うかたちにしたのは、オ・セヨンのアイディアだったという(注4)。
本作のアクションシーンについて、アクション映画ファンから否定的な声が出るとすれば、それは、非常に高度なことが行なわれているというのに、あまりにえんえんと続くため、だんだん見慣れてきてしまうのが残念だというものだろうか。しかしこのような印象を与えかねないことも、実は監督は織りこみ済みなのかもしれないと思う。その理由はあとで述べる。