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『KILL 超覚醒』「インド映画史上最も暴力的な映画」が目指したもの

© 2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.

『KILL 超覚醒』「インド映画史上最も暴力的な映画」が目指したもの

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暴力の帰結



 さて、本作を観た人たちが、これと並べてみたくなる映画としてすぐさま思い浮かべるのは、「ジョン・ウィック」シリーズや、インドネシアのアクション映画『ザ・レイド』(11)だろう。監督もこれらからの影響を否定していない。しかしそれ以上に大きなインスピレーション元として彼が挙げているのは、ジェイムズ・キャメロンの『エイリアン2』(86)である。人類の側から語られているから我々はエイリアンを殺すべき敵だと見なすのであって、エイリアンも主人公リプリーも、子ども(リプリーの場合は疑似娘)を守ろうとしているのに変わりはない。この構造が『KILL 超覚醒』に引き継がれているのだと監督は言う(注5)。


 実際、この映画で印象的なのは、通常のアクション映画であれば容赦なく殺されて然るべき共感不能な悪として描かれるはずの敵役、ダコイトの一味が、あまりに人間的なことだ。彼らは親戚関係にあり、強い愛情と信頼で結ばれている。「敵役の造形が悪として弱すぎる」との評価が欧米の一部の批評にはあったようだが、監督にとってはまさにそれこそがこの映画の肝なのだ。アムリトにもダコイトにも、喪失の悲しみがあり、報復へと向かう理由がある。


 そして、40分以上にもわたるアヴァンタイトル部分を経て、アムリトが「覚醒」してからの壮絶な展開を観るうちに、わたしたちが印象づけられるのは、彼がふるう暴力の過剰さだ。終盤ファニが口走るとおり、それは、ダコイトが実際にふるった暴力への対価にしては多すぎるとさえ思われる。



『KILL 超覚醒』© 2024  BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD.  & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.


 ダコイトの暴力はアムリトを人間ならざる鬼神へと変える。彼の暴力はさらなる暴力を生む。つまり、アクションの連続で観客にカタルシスをもたらしつつも、この映画はそれと同時に、憎悪と暴力の連鎖がどのようなものであるかを描いているのだ。憎しみに囚われた人間はどんなことでもする。後半、子どもを失った女性がある行動を取るシーンは、この映画でおそらく最もショッキングな部分だろう。しかも恐ろしいことに、先ほど述べたとおりわたしたちは、これらの凄絶な暴力にさえ「慣れて」しまうのだ。


 最後につけ加えると、本作には他の普遍的な社会問題も描かれている。トゥリカに対するファニの振る舞いにミソジニーがはっきりと表われていることと、トゥリカが精神的に自立していて、誇り高く勇敢に戦う女性であることは、この映画を広く世界に届く現代的なものとしている。そして舞台となるラーンチー発ニューデリー行きの列車は、デリーと各州主要都市を結ぶ、いわゆる「ラージダーニ急行」である。インドで最も運賃の高い列車のひとつで、乗客はもっぱら富裕層だ。乗りこんでくるダコイトと乗客たちのあいだには――服装や行動の違いなどから感じ取る人も多いだろうが――非常に大きな階級格差がある。ダコイトをまったくの悪として描かなかった理由は、ここにも求められるだろう。


(1) https://filmexposure.ch/2023/09/25/ff-2023-interview-with-kill-director-nikhil-nagesh-bhat/

(2) https://collider.com/kill-movie-lakshya-raghav-juyal-nikhil-nagesh-bhat-interview/

(3) https://www.hindustantimes.com/entertainment/bollywood/exclusive-kill-action-director-se-jeong-oh-on-how-he-dialled-up-the-gore-on-a-moving-train-101721109400707.html

(4) https://www.cinemaexpress.com/hindi/interviews/2024/Jul/23/nikhil-nagesh-bhat-james-camerons-aliens-was-a-huge-influence-on-kill

(5) 同上。



文:篠儀直子

翻訳者、映画批評。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)、『BOND ON BOND』(スペースシャワーネットワーク)、『ウェス・アンダーソンの世界 ファンタスティック Mr.FOX』『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(以上DU BOOKS)、『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)等。




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『KILL 超覚醒』

新宿ピカデリー 他全国ロードショー中

配給:松竹

© 2024  BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD.  & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.

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