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『ズートピア2』ディズニー・アニメがネクストレベルで描く、アメリカの本質
異なる種族との共生
ここで2人の物語は、そんな違いを持ったバディが真に分かり合えるのかという、一つのシリアスなテーマへと導かれる。本作ではそのような問題について、違うからこそ互いに影響を与え合い、自分を変えていくことができるという見方を観客に提供するのだ。“違い”を認め合い共生することこそ、『ズートピア』シリーズのメインテーマであるといえる。異なる種族や、草食と肉食などの性質を超えて動物たちが協力し合うことと同様、互いへの愛情があるのならば性格の違いも乗り越え、ポジティブに受け取ることができるという希望を示唆しているといえよう。
ズートピアを維持するのに重要な仕組みとなっているのが、「ウェザー・ウォール」といわれる施設。本来、動物たちは生息に適した地域に棲むものだが、多様な動物が集まるズートピアでは、一つの地域をウェザー・ウォールによって区分けし、さまざまな動物に対応する擬似的な生息圏を作り出している。ジュディたちが隠された爬虫類のコミュニティに接触するべく向かったのは、街の南部「マーシュ・マーケット地区」。ここは、フロリダやミシシッピ・デルタなどのような、アメリカ南部の湿潤な地域を連想させる場所だ。『罪人たち』(25)でも描かれているように、アメリカ南部にはアフリカ系やアジア系などの有色人種が少なくない。

『ズートピア2』(c) 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
とはいえ、『ズートピア』シリーズはもちろん、その地域の動物たちを、そのまま特定の人種に結びつけているというわけではない。ここでの水辺の動物や爬虫類には、たしかにアメリカでのマイノリティにあたる民族の要素を投影させてあるものの、それらはあくまで複合的にミックスさせてあるのである。前作では草食動物と肉食動物の間の軋轢を描いていたが、ここでは、多様性の尊重というズートピアの理念が、実質的には哺乳類にしか適用されていないのではないかといった疑問が投げかけられる。そういった都市の“闇”の実態を語るのが、水陸に適応したビーバーのニブルズであることは示唆的だ。
ただ、彼女のキャラクターが陰謀論を主張するポッドキャスト配信者であることは議論を呼んでいる部分だ。確かにアメリカ映画では伝統的に、政府の情報に疑惑を投げかける存在が、圧政への抵抗者として肯定的に描かれてきた。とはいえ、一部の配信者が政治的なデマを流布することで、偏見や排外的な空気を醸成したことが大きな社会問題になっていることも事実。本シリーズが意図せざるところで陰謀論者を利する結果を生み出しかねない点には留意が必要である。