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『ズートピア2』ディズニー・アニメがネクストレベルで描く、アメリカの本質
自由の国、アメリカとは
本作の物語は、その佳境において、そもそものズートピアという街の成り立ちに隠された、巨大な欺瞞へと到達する。この構図は、アメリカ建国において先住民を特定地域へと追いやり、マイノリティを周縁部へと排外してきた歴史そのものに重ねられる。なぜ本作が、このようなアメリカの負の歴史に踏み込むのかといえば、それは偏見によって移民への風当たりが強くなっている世相を反映しているからだろう。
もともと、現在のアメリカを築いた白人たちも、ヨーロッパからの入植者なのである。先住民の土地を奪った移民だった者たちが、新たな移民や文化は外部の存在として迫害する……。そんな身勝手でグロテスクな構図が、アメリカという国の否定できない暗部なのだというのが、本作が告発した事実なのである。
それは、多様性の理念を否定し、ディズニーを含めたアメリカの企業にDEI(多様性・公平性・包括性)撤廃の圧力をかけているドナルド・トランプが標榜する、「アメリカを再び偉大に」というスローガンが、過去の欺瞞の上に成り立っているという事実でもある。こうした自国や自分たちに都合の良いストーリーに身を委ねるのではなく、歴史上の誤りをまず認め、その上で多くの人々の幸福を追求することが重要だというのが、ここでのメッセージだと考えられる。

『ズートピア2』(c) 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
この構図は、じつは『ザ・シンプソンズ』の傑作エピソード「負けるなアープーここにあり!」(Much Apu About Nothing)が90年代に作中で早くも描いていた、排外主義者の欺瞞への指摘そのものでもある。前作『ズートピア』の監督の1人であるリッチー・ムーアは、このエピソードにはかかわってはいないが、そんな『ザ・シンプソンズ』の中心的なクリエイターの1人だったことも指摘しておきたい。
こういった製作者側の試みが、どれだけ画期的で重要な事柄なのか、本作の観客の多くに伝えることができているのかどうかは、正直なところ分からない。だが、少なくとも多くのファンを持つディズニー作品がこの内容を描いたこと、それが動員において未曾有の記録を叩き出しているというのは、画期的かつ痛快な出来事であることは間違いない。『ズートピア』シリーズは、とくに新たな世代に向けた作品である。全てを理解できずとも、次代を引き継ぐ世界の子どもたちが、こういった考え方を物語の上で体感することに、意味はあるのかもしれない。
これからの時代は全ての市民が、そのような歴史に学ばない排外主義的な考え方を捨て、“差別する自由”ではなく、“あらゆる偏見から自由になる”ことを目指すべきではないのか。本作『ズートピア2』は、そうしてこそ真の「自由の国アメリカ」なのだという考えを、ズートピアという街の方向性を通して、新たな世代に向けて語っているのである。そしてそれは、もちろんアメリカだけではなく、日本を含めた世界のあらゆる国、社会をも射程にしている。
文:小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
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『ズートピア2』
大ヒット上映中
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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