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『ジェイ・ケリー』ジェイとロンの“マリッジ・ストーリー”、成功と失敗の人生讃歌

Netflix映画『ジェイ・ケリー』

『ジェイ・ケリー』ジェイとロンの“マリッジ・ストーリー”、成功と失敗の人生讃歌

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ジェイとロンの“マリッジ・ストーリー”



「成功の物語と失敗の物語は同じ構造だ」(ノア・バームバック)*


 『ジェイ・ケリー』は、人生における優先順位と献身に関する映画だ。ジェイは優先順位を間違わないことで成功してきた。俳優という仕事に献身してきた。ジェイには傲慢なところがあるが、決して他人に無関心な人ではない。むしろ人を愉快にさせてくれる人物だ。よき父親でありたかったという気持ちも嘘ではないだろう。しかし時間には限りがある。私たちは目の前のすべてのことにベストを尽くすことはできない。優先順位をつける必要がある。そこには機会の損失が生まれる。あのときベストを尽くせなかったという後悔が、亡霊のようにジェイに付いて回っている。ジェイと二人三脚になって献身を捧げてきたマネージャーのロンは、子供とのプライベートを削っている。ロンのサイドストーリーがジェイの物語と並行して描かれていく。そして年月は過ぎ去り、ジェイとロンはいまや二人とも歳を重ねている。本作は人生の成功と失敗に関するジェイとロンの“マリッジ・ストーリー”といえる。ノア・バームバックは傑作『マリッジ・ストーリー』(19)や『フランシス・ハ』(16)で、成功や機会の損失をテーマにしている。その意味でノア・バームバックのパートナーであるグレタ・ガーウィグや、アリーチェ・ロルヴァケルの姉アルバ・ロルヴァケルといった、アメリカとイタリアで独自の道を切り拓いている二人の女性が出演しているのは、本作の持つ現代性への適切なサポートといえる。



Netflix映画『ジェイ・ケリー』


 一生に一度の役。ジョージ・クルーニーは映画スターの優雅さ、重厚さ、道化、傲慢さ、脆さを兼ね備えた驚くべき演技を披露している。『8 1/2』(63)のマルチェロ・マストロヤンニのような気品がある。ジェイを演じるにあたり、ジョージ・クルーニーは叔母のローズマリー・クルーニーのことを思い描いていたという。若くして成功した歌手のローズマリー・クルーニーは、ロックンロールの台頭による時代の変化と、過去の成功との折り合いをつけられなかったという。ケンタッキー州の田舎出身というジェイの設定はジョージ・クルーニー本人と同じだが、ジェイとジョージ・クルーニーの関係は自画像というわけではなく、ときにニアイコールで重なったり、ズレていったりするところに、本作の妙がある。


 そしてマネージャーのロンを演じるアダム・サンドラーの演技には、自己嫌悪のような痛みがある。24時間体制でマネージャーを務めるロンは、ジェイに人生を奪われた最大の被害者である可能性があるが、ほとんどのシーンでロンの怒りは気まぐれなジェイに向かうよりも、自分自身の至らなさに向けられているように見える。なんと愛すべきキャラクターなのだろう。落ち込んだロンが、パートナーのロイス(グレタ・ガーウィグ)に「愛していると言ってくれ」と語りかけるシーンにひどく胸が締め付けられる。ロンは、“ジェイ・ケリー”というプロジェクト=芸術への献身に人生の喜びを賭けてきた。映画産業やセレブについて右も左も分からなかった子供のようなジェイをハリウッドスターに育てあげた。しかし本当の子供との時間を大事にするべきだと思い始めている。




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