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『ジェイ・ケリー』ジェイとロンの“マリッジ・ストーリー”、成功と失敗の人生讃歌

Netflix映画『ジェイ・ケリー』

『ジェイ・ケリー』ジェイとロンの“マリッジ・ストーリー”、成功と失敗の人生讃歌

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『ジェイ・ケリー』あらすじ

有名な映画俳優のジェイ・ケリーと、彼に献身的なマネージャーのロンの物語。二人は慌ただしくヨーロッパを巡る旅に出ることになり、それが思いがけずそれぞれの人生を振り返る奥深い旅路となる。その道中、二人は自分たちが下してきた数々の決断や、大切な人たちとの関係、そして自分たちが残していく遺産と向き合うことになる。


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ジョワ・ド・ヴィーヴル(生きる喜び)



 ジェイ・ケリー(ジョージ・クルーニー)はハリウッドスターであり、この俳優の名前を掲げたプロジェクト名である。ノア・バームバックの『ジェイ・ケリー』(25)は、9ページに及ぶ台本をワンカットに収めた驚くべきショットから始まる。豪華なスタジオセットを忙しなく動き回る人々は、活気と緊張感に満ちている。大人数がフレームの中を絶え間なく出入りしていく。ここには映画のスタッフだけでなく、ジェイ・ケリーというプロジェクトに献身を捧げるマネージャーのロン(アダム・サンドラー)が、家族と連絡を取り合っている慌ただしい姿が捉えられている。クランクアップの日。ネオンの輝く街角の風景をバックに、ジェイが演じる人物は孤独な死の時を迎えつつある。撮影中の映画のラストと思われるシーンで、彼はこう呟く。「死ぬ時にやっと分かるんだ。思っていた自分は“虚像”だと」。



Netflix映画『ジェイ・ケリー』


 映画の中で役を演じるだけに留まらず、大衆の前で華やかでご機嫌なスターを演じるジェイ。ジェイの周りには、いつもボディーガードがついている。ジェイがドアを閉め、外の雑音をシャットアウトするシーンが繰り返し描かれている。一人の空間で立ち止まるとき、ジェイは初めて自分と向き合える。そして自分は何者でもないのではないか?という恐怖に襲われる。ジェイは世界的に成功している俳優だが、二人の娘がいる失敗した父親でもある。俳優の仕事以外で、唯一のアイデンティティといえる年頃の娘は、父親の元を離れようとしている。すべての父親がそうであるように、ジェイは娘の人生をコントロールすることができない。劇中の旧友との会話にあるように、父親ができる最大の貢献とは、娘の親離れなのだろう。しかしジェイはそのときがくるのをできるだけ遅延させようとしている。そこには大衆が知ることのない“ジェイ・ケリー”の実像がある。「あなたはいつも自分を演じている」という批判に、ジェイはほとんど間を置かずに答えている。「自分でいるのは難しいよ、やってごらん」。


 『ジェイ・ケリー』は取り返しのつかなさに関する映画であると同時に、人生への祝福が描かれた映画だ。ノア・バームバックにとって本作は、映画を撮ることの愛や情熱をよみがえらせてくれた作品だったという。大きなセットを舞台に、振り付けやタイミングが見事に計算されているファーストシーンには、盟友ウェス・アンダーソンと一緒に『ライフ・アクアティック』(04)を撮っていた頃のような喜びに溢れている。『ライフ・アクアティック』と同じく、開放的なイタリアでの撮影があることが象徴的だ。実際、『ジェイ・ケリー』は最近のウェス・アンダーソン作品と多くの点で共振している。演技と人生に関する映画という点で『アステロイド・シティ』(23)と。失敗した父親、父と娘というテーマは『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』(25)と。同時に後者のテーマは、ジョージ・クルーニーの『ファミリー・ツリー』(11)を想起させる。人生の成功と失敗について。撮影前に書かれていたというニコラス・ブリテルによる、フェルトピアノを駆使したノスタルジックなスコアが俳優たちの演技に影響を与えたという(「Joie de vivre(生きる喜び)」!)




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