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『トレイン・ドリームズ』が賞レースのダークホースとして注目される幾つかの理由

Netflix映画 『トレイン・ドリームズ』

『トレイン・ドリームズ』が賞レースのダークホースとして注目される幾つかの理由

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監督と主演俳優に起きた出来事と映画を結ぶ運命的なリンク



 もう少しだけ製作の舞台裏を紹介しよう。実はクランクイン直前、監督のクリント・ベントリーは最愛の両親を立て続けに亡くしている。その直後、妻との間に初めての子供を迎えたばかりだったベントリーは、まだ混乱する不思議な感情の中で、送られてきた原作を読み終えている。それが『トレイン・ドリームズ』と具体的にどう関係したかは、次の監督のコメントからおしはかっていただきたい。「悲しみと喜び、誕生と死。相反する感情がぶつかり合うこの物語は、まさに私が経験したことと深く結びついているように感じた」。


 それは、ほとんど感情を表に出さず、常に洞察力を促す絶妙な演技で魅了し続ける主演のジョエル・エドガートンも同じだったかもしれない。エドガートンも原作を読んだ直後、オーストラリア版“ヴォーグ”の編集長、クリスティン・センテネラとの間に双子の子供を授かったばかりだったのだ。出演を決めた時、エドガートンはメディアの取材に対して、こんなコメントを残している。「双子の子供たちは超未熟児で生まれ、長い間入院していた(今、彼らは元気に成長して4歳半になっている)。そして、この物語に対する私の関係が、はるかに個人的なものへと変化していることに気づいた。だから、どうしてもこれをやらなければならないと思った」。


 映画製作はシビアなビジネスであると同時に、状況とタイミングによっては、人と人とを結びつける運命的な接着剤になりうることを、『トレイン・ドリームズ』は物語っているのではないだろうか。



Netflix映画『トレイン・ドリームズ』


 監督と主演俳優の熱い思いに応え、森の自然や伐採のシーンを美しくリアルに捉えているアドルフォ・ヴェローゾのカメラワークも見逃せない。彼が行った仕事は、マリックの『ニュー・ワールド』(05)やアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの『レヴェナント:蘇えりし者』(15)で知られる撮影の名手、エマニュエル・ルベツキに通じるものだ。


来るオスカーでは脚色賞に加え主演男優賞も有力か?



 賞レースに話を戻そう。映画サイト“IndieWire”による11月25日付けのアカデミー賞の予想では、『トレイン・ドリームズ』はジョエル・エドガートンが主演男優賞のフロントランナー5人の1人に、クリント・ベントリーとグレッグ・クウェダーが脚色賞、撮影のアドルフォ・ヴェローゾが同じくトップ5人の一角に食い込んでいる。もちろん、票読みは今後の2ヶ月で変化する可能性は大だ。アカデミー会員は過去の『ノマドランド』(20)や『コーダ あいのうた』(21)といった感情を刺激する作品に靡く傾向があり、『トレイン・ドリームス』のメインカテゴリー制覇も不可能ではなさそうに思う。


引用資料

https://variety.com/2025/film/awards/train-dreams-best-picture-dark-horse-oscars-1236559967/

https://variety.com/2025/film/podcasts/clint-bentley-train-dreams-grief-parents-1236557998/

https://www.indiewire.com/awards/consider-this/joel-edgerton-train-dreams-interview-oscars-1235161586/

https://www.indiewire.com/p/netflix-train-dreams-clint-bentley/

https://www.indiewire.com/lists/2026-oscar-predictions-academy-awards/best-cinematography/



文:清藤秀人(きよとう ひでと)

アパレル業界から映画ライターに転身。現在、映画com、MOVIE WALKER PRESS、Safariオンラインにレビューやコラムを執筆。また、Yahoo!ニュース個人にブログをアップ。劇場用パンフレットにもレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社刊)、監修として『オードリー・ヘプバーンという生き方』『オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120』(共に宝島社刊)。



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Courtesy of Netflix © 2025 BBP Train Dreams. LLC.

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