2026.01.16
『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』あらすじ
アメリカ・ワシントン州の北西部の田舎町ディア・メドウでテレサ・バンクスという少女の遺体が発見される。FBIは捜査官デズモンドを現地に送り込むが、デズモンドは捜査の途中で謎の失踪を遂げてしまう。捜査に加わったクーパー捜査官は再び事件が起こることを予感する。それから1年後、ディア・メドウに隣接する町、ツイン・ピークス。美貌の高校生ローラ・パーマーは一見明るい日々を送っていたが、その裏では不安に苛まれドラッグやセックスに溺れていた。そして、事件は起こる…。
Index
熱狂が終わる、その瞬間
1990年のあの頃、筆者は『ツイン・ピークス』に夢中だった。いや、世界中の人間が『ツイン・ピークス』に夢中だった。小さな田舎町で女子高生ローラ・パーマーが殺害された事件をめぐる、伝説のカルト・ドラマ。謎が謎を呼ぶ展開が瞬く間に社会現象となり、熱狂的なファンダムを生み出す。第1シーズン最終回の視聴者数は1,800万人を超えたとされ、テレビ史に異様な爪痕を残すことになる。
もちろん、あのデヴィッド・リンチが手がけている以上、単なる犯人当てに収まる訳がない。FBI捜査官デイル・クーパーは、容疑者の名前を読み上げながら瓶に石を投げつけるという不可解な捜査手法を披露し、タキシード姿の巨人が唐突に現れては謎めいた言葉を残し、赤い部屋では逆再生のような台詞と奇妙なダンスが繰り広げられる。『ツイン・ピークス』とは、アメリカの片田舎を舞台に、超常と夢幻が現実と地続きで混じり合う、シュールレアリスティックなミステリーだった。
しかし、その熱狂は永遠には続かない。第2シーズン中盤でローラ・パーマー殺害の真相が明かされると、シリーズは急速に求心力を失ってしまう。共同製作者のマーク・フロストは、「間違いなく、早すぎました。本当に、ネットワークから銃を突きつけられているような状態だったんです」(*1)と振り返る。放送局のABCは、当初から犯人の早期開示を求め、要求に応じなければ制作費の送金を止める可能性すら示唆していた。リンチが「この謎は、決して解くべきじゃない。永遠に続くべきなんだ」(*2)と主張していたにもかかわらず。
真相開示後の失速は、実際の編成判断にも表れている。ABCは『ツイン・ピークス』を低視聴率番組として土曜夜の放送枠から外し、映画枠に差し替える決定を下した。全22話中、残り6話を残した段階での編成変更は、事実上の継続断念を意味する。物語の推進力を担っていた〈謎〉というエンジンを失った『ツイン・ピークス』は、構造的にも制度的にも、急速に居場所を奪われていったのである。

『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』(c)Photofest / Getty Images
リンチは第3シーズンの制作を望んだが、視聴率の低下と制作費高騰を理由に、放送局のABCは打ち切りを決定。物語は不本意なかたちで終焉を迎える。だが、リンチはそこで立ち止まらなかった。彼にとってツイン・ピークスとは、ダーク・サイド・オブ・ディズニーランドであり、いつまでもこの身を浸していたいと願う場所。テレビシリーズ最終回では、ブラック・ロッジに囚われたデイル・クーパーの行方をはじめ、数多くの物語が宙吊りにされたまま残されたが、リンチはシリーズのその後を描く、続編としての長編映画を構想し始める。
その過程では、主要キャラクターのひとりオードリー・ホーンを主人公に、彼女がハリウッドへと向かうスピンオフ映画案も検討された。この企画は実際に脚本開発段階まで進んでいたが、最終的に『ツイン・ピークス』の名のもとで実現することはなく、『マルホランド・ドライブ』と名付けられた別の映画へと変質していくことになる。
テレビシリーズが〈解決〉によって閉じられてしまったのなら、次に選びうる道は、解決の先へ進むことではなく、解決される以前の時間へと立ち返ることではないか。そうして最終的にリンチが選んだのが、ローラ・パーマーがまだ生きていた日々に光を当てる前日譚、『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』(92)。リンチはここで、終わらされた神話を、過去へと遡行するかたちで、あらためて拡張しようとしたのだ。