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デヴィッド・リンチ監督作品まとめ 永遠に正体を掴むことのできない、ナチュラル・ボーン・アーティスト

(c)Photofest / Getty Images (C) 1984 DINO DE LAURENTIIS COMMUNICATIONS. ALL RIGHTS RESERVED. (C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

デヴィッド・リンチ監督作品まとめ 永遠に正体を掴むことのできない、ナチュラル・ボーン・アーティスト

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2025年1月16日、デヴィッド・リンチが78歳で死去したニュースが世界中を駆け抜けた。『フェイブルマンズ』(22)で彼を役者として起用したスティーヴン・スピルバーグは、こんな追悼コメントを寄せている。


「私はデヴィッドの映画が大好きだった。(中略)これほどまでに独創的でユニークな人間を失って、世界は寂しくなるだろう。彼の映画はすでに時の試練に耐えてきたし、これからもそうなるはずだ」


彼は映画制作のみならず、シュルレアリスムを信奉する画家として、摩訶不思議な宇宙を生み出す写真家として、インダストリアルでノイジーな音楽家として、あらゆるジャンルを横断するクリエイターであり続けた。長年にわたって、世界中の評論家が彼の作品を解剖しようと試みたが、いまだその正体は明かされていない。“ナチュラル・ボーン・アーティスト”デヴィッド・リンチは、あらゆる考察・解釈をはねのける。


彼にとって映画は、表現手段のひとつでしかない。『アルファベット』(68)、『グランドマザー』(70)、『ジャックは一体何をした?』(17)など短編も数多く手がけているが、ここでは長編作品に絞って紹介していこう。


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1.『イレイザーヘッド』(76)89分


(c)Photofest / Getty Images


奇妙奇天烈な唄を口ずさみながら、オタフク少女が天井から落ちてくる精子を踏みつける。子羊の胎児のような姿の赤ん坊が泣き叫ぶ。主人公ヘンリーの頭部が転がり落ちて、消しゴムの原料になる。「消しゴム頭」というタイトルからして意味不明だが、内容もさらに輪をかけて意味不明。デヴィッド・リンチはこの異様な作品を、5年の歳月をかけてコツコツと創り上げた。


単なるシュールレアリスティック・ムービーではない。このフィルムには、望まぬ結婚・望まぬ妊娠によって、やりきれない感情を抱いていたリンチの、偽らざる想いが焼きついている。己に巣食うオブセッションをそのまま視覚化した私小説的作品であり、リンチ曰く「僕の『フィラデルフィア物語』」


もっと詳しく:『イレイザーヘッド』なぜデヴィッド・リンチは胎児の悪夢を描くのか




2.『エレファント・マン』(80)124分


(c)Photofest / Getty Images


19世紀イギリスに実在した、“エレファント・マン”ことジョゼフ・メリックの半生を描いた感動作。プロデューサーのメル・ブルックスは、『イレイザーヘッド』を観てデヴィッド・リンチの才能に惚れ込み、監督に大抜擢。アカデミー賞では最優秀作品賞など全8部門にノミネートされ、その慧眼が正しかったことを証明した。


トリーヴス医師を演じたアンソニー・ホプキンスは、リンチとたびたび衝突し、「経験豊かなベテラン監督を起用すべきだ」と解雇を訴えたものの、メル・ブルックスは断固リンチを擁護したという。なお俳優のブラッドリー・クーパーは、この映画をきっかけにして役者の道に進んだと明言している(彼はブロードウェイでジョン・メリック役を演じている)。


もっと詳しく:『エレファント・マン』見世物小屋の象男が求める本当の「人間らしさ」とは




3.『デューン/砂の惑星』(84)137分


(C) 1984 DINO DE LAURENTIIS COMMUNICATIONS. ALL RIGHTS RESERVED.


フランク・ハーバートによるSF小説の金字塔「デューン」を映像化。デヴィッド・リンチは、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(83)の監督オファーを蹴ってこの超大作に挑んだが、さすがに2時間ちょっとでは膨大な原作を消化しきれず、ダイジェスト版のような駆け足展開になってしまった(その点、合計5時間超えの二部作に仕立てたドゥニ・ヴィルヌーヴは賢かった)。リンチ自身も、キャリア最大の失敗作だと認めている。だが、ハルコネン男爵が嬉々としながら空中を飛び回るシーンをはじめ、そこかしこにリンチ的筆致が刻印されていることは見逃せない。


なお、出演者のひとりパトリック・スチュワートは、フェイド・ラウサ役を演じたミュージシャンのスティングのことを当時全く知らず、「ポリスというグループにいる」という話を聞いて、警察官のバンドに所属していると思ったんだとか。


もっと詳しく:『デューン/砂の惑星』スタジオに翻弄された、デヴィッド・リンチ唯一無二のSF




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