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デヴィッド・リンチ監督作品まとめ 永遠に正体を掴むことのできない、ナチュラル・ボーン・アーティスト
8.『ストレイト・ストーリー』(99)111分
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病弱な兄を見舞うため、73歳のアルヴィン・ストレートがアイオワ州からウィスコンシン州を芝刈り機で横断。ニューヨーク・タイムズに掲載された実話を、デヴィッド・リンチが映画化。一見リンチらしからぬハートウォーミングものに思えるが(実際にそうなのだが)、壊れた芝刈り機を修理しては法外な料金をふっかける双子だったり、毎週のように車で鹿をはねてしまう中年女性だったり、登場するキャラクターはしっかり奇天烈リンチ系。アメリカ映画の王道を行くロードムービーであっても、彼の息吹は至るところに感じられる。
主人公を演じたリチャード・ファーンズワースは末期ガンに冒されていたが、気力を振り絞って最後まで撮影を続け、その演技が認められてアカデミー主演男優賞にノミネート。だが公開翌年の2000年10月6日、ショットガン自殺でこの世を去った。
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9.『マルホランド・ドライブ』(99)145分
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ハリウッド女優を夢見るベティ(ナオミ・ワッツ)と、記憶をなくしたリタ(ローラ・ハリング)。映画の都ハリウッドを舞台に描かれる、二人の女性の物語。やがて現実と夢の境目が曖昧となり、妖しくも美しいナイトメア・ストーリーが紡がれていく。劇場の支配人がスペイン語で「これはまやかしだ」と語りかけたように、この映画で起こるすべての事象はイリュージョンなのかもしれない。
元々のプロットは、『ツイン・ピークス』第2シーズンのために構想されていたもの。やがて独立したTVシリーズとして企画されるがそれも叶わず、最終的に劇場用映画として作られた。2016年に発表された「BBCが選ぶ21世紀最高の映画100本」では、『花様年華』(00)や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)を抑えて見事1位に輝いている。
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10.『インランド・エンパイア』(06)179分
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インランド・エンパイア=内なる帝国。まさしくこの映画は、監督・脚本・製作のみならず音楽・撮影・編集までもデヴィッド・リンチがこなした、パーフェクト・リンチ・ワールド(ビデオソフトの自主配給権もリンチが取得)。当日書き下ろした台本を俳優に数ページ渡し、ソニーの手持ちカメラで撮影するという、超パーソナルな制作体制がとられている。
女優のニッキー・グレイス(ローラ・ダーン)と、別世界に存在するロスト・ガールやウサギ人間(?)のエピソードが奇妙に絡み合い、カオティックな空間をかたちづくっていく。3時間にもわたる上映時間のあいだ、ひたすらクエスチョンマークが脳内で点滅し続けること必至。リンチのエッセンスが極限にまで濃縮された、孤高にして至高の幻想譚。
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いま、私たちの前には10本の長編映画が残されている。きっとこれからも、誰かが永遠に解けない謎を解き明かそうとすることだろう。デヴィッド・リンチをめぐる冒険はまだまだ続く。最後に、筆者が個人的に好きなリンチの言葉を紹介しよう。
「なぜ人々はアートに意味のあるものだと思うのか分からないね。人生は意味のないものだという事実を知っているくせにね」
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。