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『パリから来た殺し屋』異邦人の視点から見つめた、批評的LAノワール

© 1972 Gaumont (France) / Mondial TE-FI Televisione Films (Italie)

『パリから来た殺し屋』異邦人の視点から見つめた、批評的LAノワール

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狩られる側から、狩る側へ



 『パリから来た殺し屋』の白眉は、孤立無援の状況から反転攻勢へと転じる、二部構成の鮮やかさにある。まず序盤、ルシアンはビバリーヒルズの豪邸に住むマフィアの首領コヴァックス(テッド・デ・コルシア)を暗殺する命を受け、あっさりとミッション・コンプリート。だがその直後、事態は悪夢へと一変する。パスポートを含む一切の所持品を奪われたばかりか、謎の刺客レニー(ロイ・シャイダー)に命を狙われる羽目になるのだ。


 ここから始まるのは、筆者が独断と偏見でタイトルをつけるなら、「第一部:逃亡編」といったところか。四面楚歌の緊迫感に満ちているが、その道中には奇妙なブラックユーモアが漂っている。例えば、ルシアンが逃走中に道案内として男を乗せる場面。彼はキリストへの信仰を得たことで、人生観がいかに一変したかを熱っぽく語りだす。だが追跡してきたレニーに捕捉された刹那、「ジーザス」と口にし、十字架を握りしめたまま無残に射殺されてしまう。救いを求めた瞬間に死が訪れるこの描写は、神の不在を突きつける残酷なジョークのようだ。



『パリから来た殺し屋4K』© 1972 Gaumont (France) / Mondial TE-FI Televisione Films (Italie)


 ルシアンが身を隠すために人質にした母子とのやり取りも、実にシュール。命の危険がある極限状態にもかかわらず、彼らは殺し屋であるルシアンを囲んで、テレビの「スタートレック/宇宙大作戦」(66〜69)をのんびりと鑑賞したりするのだ。しかも解放された母親が、恐怖を語る人質ではなく悲劇のヒロインという役を演じるスターとして、テレビカメラの前に立つ始末。なんという変わり身の早さ!どんな悲劇でもすぐさまコンテンツとして消費してしまう異様さを、ドレー監督は異邦人の冷ややかな視線で射抜いてみせた。


 物語は中盤、ルシアンが偽造パスポートを手にし、パリへの帰路を確保したところで劇的な転換を迎える。ここで彼は、安全な逃げ道を選ぶのではなく、あえてロサンゼルスに踏みとどまる決断を下す。自分を罠にハメた黒幕が、標的だったコヴァックスの未亡人ジャッキー(アンジー・ディキンソン)と、その息子アレックス(ウンベルト・オルシーニ)であることを見抜いた瞬間、映画は「第二部:反撃編」に突入する。


 これまで、街に翻弄される異邦人でしかなかったルシアンが、ひとたび反撃に転じれば、その冷徹なプロフェッショナリズムが牙を剥く。立場は完全に逆転し、今度は執拗な追跡者レニーを罠でおびき出す。狩られる側から狩る側へ。よそ者が運命を自らの手で奪い返していく大胆な構成こそが、本作のキモなのである。





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