1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. オー・パン・クぺ
  4. 『オー・パン・クペ』眠れるパリの女に花を捧げる映画
『オー・パン・クペ』眠れるパリの女に花を捧げる映画

©1968 Machafilm

『オー・パン・クペ』眠れるパリの女に花を捧げる映画

PAGES


眠れるパリの女に花を捧げる



 『オー・パン・クペ』は花を愛することを知る映画である。そして花が枯れていくことを知る映画である。だからこそジャンヌは、花のように窓辺に佇む。ギィ・ジルの映画は、留まるイメージと消え去っていくイメージの境界にある。ジャンは言葉の人だ。詩人のように言葉を宙に投げていく。「僕はクレイジーだ」。「いいえ違います」。「あなたはクレイジーだ」。「いいえ違います」。若い恋人たちが宙に投げる無邪気な言葉の断片は、陽気な音楽の歌詞のようでもある。言葉が生まれては宙に消えていく。ギィ・ジルはその痕跡を記録していく。ジャンの鼻にある傷跡。そしてジャンとジャンヌが頻繁に互いの額を合わせるイメージの痕跡が、いつまでも残り続ける。


 二人が過ごす部屋には、ある肖像画が飾られている。『海辺の恋』でギィ・ジルが演じていた少年が抱えていた母親の肖像画だ。ジャンは肖像画のモデルになる。ジャンの肖像画を描く人物を、画家のフランシス・サヴェルが演じている。ギィ・ジルは彼を取材した短編ドキュメンタリー『Journal d'un combat』(64)を撮っている(アラン・ドロンがナレーションを担当している)。絵画との関係が浮上する。『オー・パン・クペ』は、街自体をキャンバスにする。しかし、この地域は再開発の途上にある。路上や壁に描かれた落書きは、近い将来に跡形もなく消されてしまうだろう。街の“声”が消される。ギィ・ジルは問いかけている。若い恋人たちが歩いたこの街の痕跡が消し去られたとき、思い出はどこに行ってしまうのか。



『オー・パン・クぺ』©1968 Machafilm


 ファーストシーンでカフェの前を通り過ぎた黒いベールの女性が、再びジャンヌの前に現れる。喪失の中にいるこの女性を、ロベール・ブレッソンの『ブローニュの森の貴婦人たち』(45)やジャック・ドゥミの『ローラ』(60)に出演しているエリナ・ラブルデットが演じている。ギィ・ジルの創作上のメンターであるロベール・ブレッソンとジャック・ドゥミがここに接続される。ベールの女性は、息子と30年間暮らした部屋が再開発で取り壊されることに胸を痛めている。いつまでも思い出の中で生きていたかったと。都市の物語が反復される。類似性が生まれる。黒いベールの女もまた、中断された愛の中で生きている。妻に蒸発されたジャンヌの父親も同じだ(父親の顔、特に眉毛はジャンによく似ている)。


 思い出の中に生き続けることを望む人々。『オー・パン・クペ』は、自傷性に耐えながら喜びを“再生”させようとする彼女たちの選択を尊重している。眠りの中にいる彼女たちの顔に美しさを発見し、その息遣いと声を永遠にフィルムに留める。眠ることは生き続けること。ジャンヌは夢を実現するのではなく、もう一度夢を見る。この映画は、眠れるパリの女に花を捧げている。



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



『オー・パン・クぺ』を今すぐ予約する↓




作品情報を見る



『オー・パン・クぺ』

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

配給:クレプスキュール フィルム 

©1968 Machafilm

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. オー・パン・クぺ
  4. 『オー・パン・クペ』眠れるパリの女に花を捧げる映画