2018.10.17
現代にも訴える多様性へのアピール
映画『ウエスト・サイド物語』は、舞台版を観ていない世界中の人々に強烈なインパクトを与え、日本でも1961年12月から1963年5月まで500日もの空前のロングランを記録した。アカデミー賞では11部門にノミネートされ、そのうち10部門で受賞するという快挙もなしとげた。1960年代に突入し、ハリウッドでのスターの新旧交代も重なり、より斬新な作品への評価が高まったのも、アカデミー賞での『ウエスト・サイド物語』への追い風となった。監督賞として2個のオスカー像が用意されたのも史上初めてだったが、ロバート・ワイズとジェローム・ロビンスが壇上でおたがいへの感謝を述べることはなく、撮影現場での確執は事実だったようだ。
『ウエスト・サイド物語』(c)Photofest / Getty Images
時を超えて『ウエスト・サイド物語』が輝きを失わないのは、音楽や振付に加え、そのテーマであり、ここで描かれる人種間のいさかいは、トランプ政権の時代ではむしろ再燃していた。まさに多様性を力強く訴える作品であり、人種はもちろん、ジェット団にトランスジェンダーを思わせるキャラクターがいるなど、LGBTに関しても時代を先取りしていた。一方で「クラプキ巡査どの」の歌詞の中に「姉はヒゲづら、弟は女装趣味」(劇団四季の初期バージョンでは「兄貴、オカマ」)とセクシュアリティを揶揄する内容もあり、このあたりは現代ではNGな表現と言えるだろう。テーマ、スタイルも含め、半世紀以上を経てスティーブン・スピルバーグがどう甦らせるのか、楽しみでならない。
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
Photo:Getty Images