2018.10.24
黒歴史を経て、周囲も恐れる完璧主義者に
公聴会の証言から4年後の1957年、『ウエスト・サイド物語』はブロードウェイで幕を開けるのだが、マイノリティへの差別というロビンスの長年の苦悩と、赤狩りで彼が味わった辛さが、作品に投影されたのは間違いないだろう。
舞台版『ウエスト・サイド物語』のリハーサルでは、たとえば体育館でのダンスシーンで、ジェット団とシャーク団は別々のスタジオで振付が行われるなど、両者が徹底的に切り離された。ダンサーたちには、不良グループの抗争で命を落とした少年の写真を見せて、役に没入させようと努めた。ダンサーを追い詰める行程は、自身の黒歴史となった非米活動委員会での証言を一刻も早く忘れ、振付というライフワークしか目に入らなかったためかもしれない。
『ウエスト・サイド物語』(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
この徹底ぶりは、もちろん共同監督を務めた映画版でも同じで、現場でのロビンスは「鬼・振付師」として君臨した。超過するリハーサルの時間、ダンサーが怪我をしても延々と続ける細かい振付……。その結果、ロビンスは撮影の後半、現場から離れることになるのだが、半世紀を超えた現在でも『ウエスト・サイド物語』のダンスに一切の古臭さが感じられないのは、ロビンスの完璧主義によるものだと断言できる。
『屋根の上のヴァイオリン弾き』など、その他にも多数の振付作品を残し、ジェローム・ロビンスは1998年、79歳で生涯を閉じた。
参考文献:「ジェローム・ロビンスが死んだ ミュージカルと赤狩り」津野梅太郎著 平凡社
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
Photo:Getty Images