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『ゼイ・ウィル・キル・ユー』悪魔崇拝の“死なない富裕層”が示唆するもの ※注!ネタバレ含みます
2026.05.26
1920年代建造のホテルが舞台になった理由
こうした設定から展開される本作の魅力は、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(96)や『キル・ビル』シリーズなどと同様に、かつて“エクスプロイテーション映画”や“グラインドハウス”と呼ばれた荒唐無稽な娯楽アクションの荒削りな楽しさと、それを現代的に換骨奪胎している点にある。主演のザジー・ビーツは、この復讐譚を演じるにあたり、『キル・ビル』の参照元としても知られる、漫画原作の日本映画『修羅雪姫』(73)の梶芽衣子を参考にしたと語っている。
また、刑務所での服役中にサバイバルするための格闘術を習得した主人公がマンションの階層を上がり、過激さが増していくといった構成は、ブルース・リーの『死亡遊戯』(78)や、近年のアクション映画『ザ・レイド』(11)なども想起させる。観客は流血や切断、串刺しなどの鮮烈なゴア表現も味わいながら、エイジアとともに悪魔の巣窟であるフロアを登ってゆく。
興味深いのは、そうした本作のさまざまな設定が、一体何に立脚しているのかということだ。舞台となるマンション「バージル」は、1920年代にオープンした高級ホテルを改装した建物であるという。1920年代といえば、大恐慌を目前に控えたアメリカ資本主義がもたらした狂騒の時代だ。そんな歴史のモニュメントのような空間で大勢の富裕層が、外界から訪れる“持たざる者”を犠牲にして自らの命を長引かせようとする構図は、見逃せない部分である。

『ゼイ・ウィル・キル・ユー』©2026 Warner Bros. Ent. All rights reserved
この特権階級たちの動きは緊張感を欠き、一様に運動不足で緩慢な動きしかできない。しかし、エイジアの圧倒的な武力によってどれほど無残に破壊され、倒されても、彼らはまるでゾンビのように不気味に起き上がり、その肉体を修復しながら、何度でも襲いかかってくるのだった。
この、“死なない富裕層”というグロテスクな設定を読み解く上で、本作の舞台である「バージル」が誕生した時代背景は示唆的といえよう。第一次世界大戦の特需によって1920年代のアメリカは、空前の経済繁栄を謳歌していた。「狂騒の20年代」と呼ばれたこの時代、株価は右肩上がりとなり、富裕層は夜な夜な開かれるパーティーに酔いしれていた。「バージル」という、装いは古いが贅沢で優雅な内装は、まさにこの狂騒の時代が遺した“虚飾の遺産”にほかならない。
だが、そんな狂騒の時代は、1929年のウォール街における株価大暴落によって、1930年代の「大恐慌」へと突入する。街には失業者が溢れ、経済は完全に機能不全に陥った。それまでの資本主義的な価値観は、ここで一度崩壊を迎えたのだ。しかしアメリカにおける資本主義という構造自体は、そのまま生き残った。崩壊の痛みを労働者階級に押しつけ、修復を繰り返すことで強欲なシステムは生き延びた。そうしたしぶとさこそが、エイジアに倒されても起き上がってくる住人たちの、緩慢で不気味な再生能力の本質なのではないのか。