(c)2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『HELP/復讐島』こんなサム・ライミ作品が観たかった! ブラックユーモアに満ちた快作
スプラッター描写でさえ笑ってしまうライミ流映像術
『死霊のはらわた』や『スペル』と同様に、本作はスプラッター色が強いが、それがはっきり表れているのがイノシシ狩りのシークエンス。食料を求め、木槍を手にしてイノシシに立ち向かうリンダ。その攻防は壮絶で、手に汗握るものではあるが、必死になれば必死になるほどうまくいかず、なんとか槍で仕留めたと思ったら大量の返り血を全身に浴びてしまう。彼女の受難の過剰さが逆にユーモアとなってしまうのは、まさにライミ作品ならでは。過剰なスプラッター描写はこれにとどまらず、物語がクライマックスに近づくほどその色合いを深める。
イノシシ狩り場面では、映像表現の点でも見どころがある。それは突進してくるイノシシ視点のビジュアル。猛スピードでリンダにどんどん迫り、彼女の怯えた顔がアップになっていく場面では、緊張感はもちろん、しっかりファニーな空気感も漂わせている。『死霊のはらわた』で投入された、迫りくる悪霊の視点の映像をほうふつさせるライミらしい描写だ。
また、本作ではキャラクターのアップの映像が多く、こちらもユーモアをみなぎらせる点で効果的。最初のオフィスの場面では、口元にツナフィッシュを付けたまま自信満々に自己アピールするリンダと、それにとまどう魚嫌いのブラッドリーの表情の対比が面白いし、後半ではリンダからある罰を受けることになる身動きの取れないブラッドリーの涙目のアップが、強烈な印象をあたえる。殺し合いに発展しかねないほど激しいの両者の格闘シーンでも、それぞれの顔のアップはインパクト十分だ。

『HELP/復讐島』(c)2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
リンダが好きなあの曲にはこんな意味があった!
リンダ役のレイチェル・マクアダムスはライミと2度目のタッグ。前回の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で彼女の俳優としての凄みを引き出しきれなかったというライミのラブコールに応えて、複雑な内面を持つ女性の体現に加え、アクションも熱演。美人のヒロインが多かった彼女だが、ここまで汚れ役的な顔をみせていることは驚きに値する。一方のブラッドリー役のディラン・オブライエンは『メイズ・ランナー』シリーズ(14,15,18)等でのヒロイックなイメージが強いが、ここでは憎々しいパワハラ上司像を作り出し、新境地を開拓している。
他にもダークなユーモアが宿る点を挙げておこう。オフィスでブラッドリーが同僚とゴルフ談義をしたり、パットの練習をしていたりする描写は男性優位な企業風土の風刺で、ラストシーンにもつながってくる。また、リンダが同僚にカラオケの十八番であるとブロンディのヒット曲「ワン・ウェイ・オア・アナザー」を挙げるが、これがストーカーの心理をユーモラスにつづった歌であることを踏まえると、エンディングで改めて流れるブロンディのこの曲も違ったように響いてくるかもれない。
このようにライミの作品にはディテールにこだわった描写が多く、観直す度に新たな発見がある。配信と、続くパッケージリリースにより、視聴のハードルが下がりつつある今、ライミ作品のスリリングでコミカルな毒気をじっくり味わってほしい。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『HELP/復讐島』
ディズニープラス スターにて独占配信中
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