2018.11.22
突如投入される少女イザベルの視点がもたらしたもの
ただし、『ソルジャーズ・デイ』にはもう一つの“ひねり”が用意されていた。すでに映画をご覧になった方ならお分かりの通り、本作には中盤以降、もう一人の特別なキャラが転がり込んでくる。ベニチオ・デル・トロが言うには「今作ではイザベラ・モナー演じるその少女(イザベル)役こそが、前作のエミリー・ブラントの立場を担っている」とのこと。
なるほど、確かに前作のような“メインとなる視点”ではないにしろ、今回の少女もまた、怪しげに暗躍するジョシュ・ブローリンとベニチオ・デル・トロの姿を「信じていいのか?それとも疑ったほうがいいのか?」と半ば混乱した状態で見つめるもう一つの視座と成り得ている。ブラントの不在によって怪物性を思い切り解き放ったはずだった男たちに、今一度こういった視線が注がれることで、そこにはいかなる化学変化が巻き起こるというのだろう?
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(c)2018 SO
そのような観点でいま改めて二作品を俯瞰してみると、ブラントやモナーがただの傍観者などではなかったことに痛いほど気づかされる。
当初、彼女たちはいずれもCIAの作戦を成立させるために連れてこられた捨て石のような存在だった。が、目的のためなら手段も選ばない男たち、いや少なくとも本作におけるベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロは、かくもヒロインたちの視線に我が身をさらすことによって、自分でも気付かぬレベルで少しずつ変貌を遂げていく。その胚芽は前作でもわずかに垣間見られたが、今回はすっかり枯れ果てていたはずの感情の大地に、よりダイナミックな人間性を発露させ始めるのだ。
それは彼女たちの視線がふとした瞬間に中立的な領域を超え、もうこの世に存在しないはずのアレハンドロの妻や娘に成り代わって、彼の感情を揺さぶっていたからに他ならない。本来、妻や娘の不在はアレハンドロが抱く復讐心の大きな根拠となっていたもの。こうして、もう二度と会えるはずもない最愛の者たちの存在を、思いもよらない形で強く感じることで、彼はとうに葬り去ったはずの本来の人間性を取り戻していく————そんな語りのマジックが胸を打つ形で炸裂しているところにも、決して激しさだけではない本作の秀逸さがありありと見て取れるのである。
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(c)2018 SO
聞くところによると、『ボーダーライン』シリーズは当初から三部作構想だったとか。果たして最終章となる次回作ではどのような視点が用いられるのだろう。新たなキャラクターが登場することもあるだろうし、またエミリー・ブラントやイザベラ・モナーが再登場する可能性だってゼロではない。一筋縄ではいかない面々が揃うシリーズだけに、さらなる驚愕の展開で魂の軌跡を見事に完結させてくれるのを、いまから心して待ちたいものだ。
参考:
https://screenrant.com/sicario-2-stefano-sollima-interview/
https://variety.com/2018/film/news/sicario-day-of-the-soldado-stefano-sollima-1202861781/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
2018年11月16日(金)、角川シネマ有楽町ほかにて全国ロードショー
配給:KADOKAWA (c)2018 SO
公式サイト: https://border-line.jp/
※2018年11月記事掲載時の情報です。