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『遊星からの物体X』異形をアートにした神童、ロブ・ボッティンの至芸 ※注!ネタバレ含みます。

(c)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

『遊星からの物体X』異形をアートにした神童、ロブ・ボッティンの至芸 ※注!ネタバレ含みます。

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変貌のプロセスを怪物として個性化する



 カーペンター監督はこの映画のオリジナルである古典『遊星よりの物体X』(51)に魅了され、自作ホラー『ハロウィン』(78)の劇中で引用するほど同作を気に入っていた。しかし再映画化にあたり、ジョン・W・キャンベルの原作「影が行く」により近いテイストを望んだのだ。それは地球外生命体が南極基地隊員のうちの誰に同化したのか分からず、お互いが警戒しあうサスペンス重視の内容である。そのため生命体が特定の個体であるというコンセプトを捨て、同化プロセスの悪夢的なイメージを作品の目玉としたのだ。


 そこでカーペンターは、前作『ザ・フォッグ』(80)で特殊メイク効果を担当した、視覚効果アーティストのロブ・ボッティンに特殊メイクとクリーチャー造形を依頼する。1959年に生まれ、14歳で商業映画の世界に参入したボッティンは、わずか20歳で独立し、人狼ホラー『ハウリング』(81)のオオカミ男をクリエイトするなど、早期に才能を開花させた人物だ。特に『ハウリング』は空気袋を膨張させる装置を巧みに使い、人から狼への変身プロセスをイメージでごまかすことなく即物的に描き、モンスターの表現に革命を与えた作品として知られている。


『物体X』のオファーを受けたとき、ボッティンは独立後まもない21歳。そんなルーキーが、いくら才能あるとはいえメジャースタジオの夏興行大作の重要ポジションを任されたのだから、そのプレッシャーは計り知れぬものがあっただろう。


 だが大抜擢の期待に応えるべくボッティンは、プロダクションアート担当のデイル・キュイパースと二週間をかけて絵コンテを作成し、自ら怪物のデザインを兼任。生命体が同化のたびに体が裏返るような肉体変化を起こし、これまでに取り込んだ個体の属性が顔を出すという、おぞましい変形プロセスを発案したのである。それらは状況に応じて姿もさまざまで、同化対象を触手でからめとった肉塊状態のものから、人間の頭から甲殻類のような脚を生やして逃げるものにいたるまで悪夢性に富み、いずれも視覚化が容易でないものばかりである。だがボッティンは35人にも及ぶ特殊メイクエフェクトのクルーを指揮し、およそ2年間にわたる製作期間のあいだ24時間体制を維持。その間に1日も休みをとることなく働き、映画史上もっとも醜くスケアリーなクリーチャー造形をなしたのだ。



『遊星からの物体X』(c)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. ALL RIGHTS RESERVED


 特に観客を絶叫させたのは、心肺停止状態だったノリス(チャールズ・ハラハン)の腹がとつぜん開き、人工蘇生器を打ち込むドクター(リチャード・ディサート)の両腕を食いちぎる場面だろう。ボッティンは内臓と動作制御用のファイバーグラスを仕込んだダミーを作り、ドクターのフェイスマスクとダミーの腕を役者にとりつけ、あのような驚異に満ちたシーンを完成させたのである。しかも割れた腹からノリスの顔を模したクリーチャーが登場するという一連のショットは、セットアップにおよそ10時間を要したといい、クリエイターの創意と格闘の痕跡がそこにはまざまざと感じられる。



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