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『急に具合が悪くなる』あなたの視界の中で生き続ける

© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

『急に具合が悪くなる』あなたの視界の中で生き続ける

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共に樹をつくる映画



 映画内の演劇で吾朗が演じるフランコ・バザーリアは、イタリアで精神病院廃絶への道筋をつくった人物だ。バザーリアの主張を支持していたマルコ・ベロッキオは、精神病院を舞台とするドキュメンタリーを同時代に残している(“狂っているという意味が分からない”というテーマは、まさしくベロッキオ映画における顔のクローズアップに感じることだ)。


 バザーリアの生涯を描いたテレビ映画『むかしMattoの町があった』(10)の冒頭シーンには、「愛は深刻な精神疾患だ」というプラトンの言葉が引用されている。映画の冒頭でバザーリア少年は、好きな女の子の前で海に飛び降りる(フィクションのエピソードだそうだが、テーマが的確に表わされている)。まさしく、“近づいてみれば、誰もまともな者はいない”を体現する。この映画には、バザーリアが精神病患者に尊厳を取り戻させていく過程が描かれている。生きてきた過去を剥奪され、囚人や奴隷のように扱われていた患者たちの部屋に、思い出の写真を飾ることを決めるシーンが心に残る。2つの時間軸。写真という静止画には、撮られた瞬間の出来事だけでなく、それを見る現在が発生する。そして精神病院には病気を抱えた者だけではなく、社会にとって不都合な人物が収容されていたという排除の歴史があることを忘れてはならない。


 『急に具合が悪くなる』の中で、真理がマリー=ルーに資本主義社会の構造、私たちの生きている世界の構造についてホワイトボードに図を描き、説明するシーンがある。ホワイトボードを運ぶ際の、何かの覚悟を決め内に入っていくような、うつむき加減の真理を捉えたショットが素晴らしい。目覚めの瞬間である。この映画は、マリー=ルーが介護施設の“自由の庭”で浅い眠りから目を覚ますところから始まる。劇場での質疑応答のシーンをはじめ、目覚めの瞬間が2人の時間を引き延ばす。それは真理の衰えていく身体を忘れさせる。



『急に具合が悪くなる』© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners


 真夜中の施設で、マリー=ルーは真理に“ユマニチュード”の技術を一緒に実践してもらう。相手の視界に入る。いま何をしているか語り掛ける。真理は初対面の相手に出会いの感謝を伝える。このとき2人にケアされるジュヌヴィエーヴ・エマヌエリをはじめ、フランスの俳優たちの演技が感動的なまでに素晴らしい。全員がまったく“演技”を感じさせない。真理と吾朗が観客参加型の舞台を披露するように、この映画自体が、観客に映画への参加を呼びかけている。私たち観客は、無時間の入り口に偶然居合わせたような幸福な感覚を体験する。


 本作は共に樹をつくることを呼びかける映画である。“自由の庭”で、真理と吾朗の演劇が特別に披露されるとき、濱口映画史上最高にアナーキーで幸福な瞬間が訪れる。マリー=ルーと真理、吾朗と智樹、この施設の全員による“最高傑作”が生まれる。それは真理と出会い、共に歩いた偶然の時間を祝福する“記念樹”となる。


 人生は続いていく。マリー=ルーの心の中で生き続ける祝福の樹は、包み込むように彼女を見守ることだろう。『急に具合が悪くなる』は、あなたの視界の中で生き続けることを願う映画である。叶うなら、あなたにとってもそれが幸せなことであることを願い続ける映画である。



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。




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『急に具合が悪くなる』

大ヒット上映中

配給:ビターズ・エンド

© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

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