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『さよなら、僕の英雄』本当の自分とは?アイデンティティをめぐる大胆で予測のつかない物語
個を尊重する社会の根底にあるもの
マッツ・ミケルセンのインタビューによると(*)、マンフレルは決してレノンについて詳しいわけではない。ただ、その脳裏には「ジョン・レノン=誰もが(あの父親さえ)愛した人物」という記憶が深く刻まれており、だからこそ彼は「皆に愛されたい」「自分を守ってくれる弟に愛されたい。自分のそばにずっと留まっていてほしい」という思いゆえに、そう主張しているのだとか。
重要なのは、かつて暴力的な父に阻まれた過去と違い、今では彼の突飛な願望を聞き入れてくれる仲間がおり、最愛の弟も最初は驚きつつ、やがてその心の奥底を理解し、しっかりと支えてくれていることだ。
兄弟や仲間の間で結ばれた絆。その密につながれた関係性の中においてのみ、マンフレルは正真正銘のジョン・レノンたりうることができる。また忘却していた過去の記憶を回復させた弟も、自分が多面的な存在であることを知る。

『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
もちろん、バイキングだったり、ジョン・レノンだったりというのは極端な例え話であって、本当はこの世の誰もが少なからず自分を偽り、ひたすら自分探しを続けている。その上で、「その人らしくある」ことは、本人の努力と周囲の理解と支えなしには成り立たない。根底には双方の、決して互いを手放さない深い愛が不可欠なのだ。
北欧デンマークに関してよく「福祉、教育、社会生活において個が尊重される国」「格差の少ない社会」という指摘がなされるが、本作の世界観にはそういった精神性が強く織り込まれているのかもしれない。全てを狂気とダークコメディと寓話性によって包みつつ、中核には意外なほどストレートなメッセージが込められた一作。私はそのように解釈したが、あなたはいかがだろうか?
*参考資料
https://collider.com/the-last-viking-mads-mikkelsen-interview-martin-scorsese/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『さよなら、僕の英雄』
新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
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