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『さよなら、僕の英雄』本当の自分とは?アイデンティティをめぐる大胆で予測のつかない物語

© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.

『さよなら、僕の英雄』本当の自分とは?アイデンティティをめぐる大胆で予測のつかない物語

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名優と鬼才の奇想天外なコラボレーション



 作品ごとに異なる人間的な深みと陰影を醸し出し、観客を魅了し続ける俳優マッツ・ミケルセン。ハリウッド映画への出演も多い彼が、数年ごとに故郷デンマークでコラボレーションを重ねる一人の鬼才監督がいる。それがアナス・トマス・イェンセンだ。


 もともと『アフター・ウェディング』(06)、『愛を耕す人』(23)をはじめ、骨太なヒューマンドラマの脚本家として名高いイェンセンだが、そんな彼が脚本のみならず自ら監督を担う映画は、どれもジャンル分けできない異色作ばかり。常識では計り知れない奇想天外な人物が入り乱れ、コミカルで、ブラックで、多少のバイオレンスを加味し、その上、しっかりと感動させるドラマ要素もあるから驚かされる。


 その中核を担うミケルセンとニコライ・リー・コスは、イェンセンがこれまで発表した6本の長編監督作すべてに出演する超常連だ。言うなれば「一座」のようなもの。彼らは各々が大物になった今なお、忙しい合間を縫って作品のために身を投じ合う。気心知る間柄ゆえ余計な遠慮や腹の探り合いは要らない。そうやって互いのリミッターを解除し合って、後先考えずに未知なる領域にダイブできる最高の仲間どうしなのだ。



『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.


自称ビートルズの再結成!?



 そんな流れで誕生した第6弾は、いつにも増して奇想天外なストーリーが炸裂する一作だ。


 銀行強盗に手を染めた中年男アンカー(ニコライ・リー・コス)は、手にした分け前を兄マンフレル(マッツ・ミケルセン)に託した後に逮捕され、15年後に出所を迎える。ようやく再会した兄弟。しかし幼少期から精神が不安定なマンフレルは、弟が託した金のありかを一向に明かさず、その上、今や自分のことをジョン・レノンだと主張してやまない。誰かにそれを否定されると、抗議と反抗の意味を込めて窓から躊躇なく飛び降りようとするのだから、本当に危険で厄介だ。


 二人は、家族がむかし住んでいた森の近くの家で生活を始める。そんな彼らを追うように、自分をビートルズの他の(ジョン以外の)メンバーだと主張してやまない、マンフレルと同様の症状を持った珍客たちが合流。果たしてこれは治療か、それとも新たな可能性なのか。彼ら再結成された”自称ビートルズ”は、いつか念願のステージに立つべく、日夜、練習に打ち込むのだが…。


 どうだろう。あらすじを読んだだけでは、もはや荒唐無稽すぎて訳がわからないのではないだろうか?


 でも心配は無用。いざ映像化すると、全てが明確で見応えのある物語世界になり得ているのがイェンセン一座の凄さだ。中でも、役者たちの存在感は格別で、過去イチともいえる超難役を自分の体にリアルに息づかせたミケルセンの役者魂は、やはり凄まじいものがある。




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