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『海辺の一日』“エドワード・ヤン・ユニバース”最初の大物映画が、ついに4Kレストア版で甦る。
都市・家族・結婚――“関係性の地獄”の始まり
ある種、台北という街の貌を主人公として描き続けたエドワード・ヤンの映画は、ひとりの作家の目を通した“都市論”でもある。1994年発表の『エドワード・ヤンの恋愛時代』を皮切りに、『カップルズ』、『ヤンヤン 夏の想い出』は「新台北3部作」と呼ばれる。1988年に李登輝が中華民国総統、並びに中国国民党主席に就任。台湾は急激に経済発展を遂げ、ICT(情報通信技術)産業を中心とした輸出主導型のハイテク産業国家へとグローバルな大躍進を果たした。
『海辺の一日』が製作・発表された1983年の台湾、そして次作『台北ストーリー』の1985年、『恐怖分子』の1986年は、まだ「白色テロ」と呼ばれた戒厳令の時代の末期。だが民主化へのうねりと共に、近代的な都市再開発へと本格的に動き出したダイナミックな転換期であり、すでに「新台北」の輪郭を現わしつつあった頃だと言える。さらに言うと『海辺の一日』では1983年の“現在”から十数年遡るため、1970年辺りからのドラマが展開する。そこに唯一の“近過去歴史劇”である『牯嶺街少年殺人事件』が描いた1960年前後を接続させれば、エドワード・ヤンは約40年に及ぶ台北の変容をスクリーンに刻みつけたことになる。

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そういった移り行く都市空間の中で、エドワード・ヤンが描く物語や人間模様の芯は、常に“関係性の地獄”である。『海辺の一日』ではそれが“結婚”という選択に集約されている。
家父長制が強く支配する家で育ったジャーリィは、開業医の父親の望む結婚を拒み、自由恋愛による結婚を選ぶ。しかし大学時代に知り合った夫ドゥウェイは、大企業のマネージャー職を得るが、苛酷な競争社会に溺れ、会社で愛人を作り、やがて精神を病んでいく。裕福なマンションで暮らす専業主婦となったジャーリィだが、乾いた寂寥と虚無に包まれ、“人生のどこかで道を誤ったかもしれない”という痛みに苛まれていく。
この感覚こそが、のちの『ヤンヤン 夏の想い出』にまで通底するものだ。流動的に人々が行き交い、あらゆる人間関係が分断されていく中で、自らの居場所やアイデンティティを求めて彷徨うエドワード・ヤン作品の登場人物たちは常に“第三の道”を探している。与えられた選択肢ではなく、自分で主体的に選び直す道。『海辺の一日』もまた、一風変わったミステリー調の説話構造の中で、その“第三の道”という希望の在り処に向けて模索する女性の物語として屹立する。