2026.08.05
承認欲求について見つめる
さらに、この映画で顕著なのは、おそらく現代人の誰もが直面するであろう「承認欲求」に焦点を当てているところ。マティアスはひと仕事終えるたびに、「ユーザーレビューを宜しくお願いします」と口にする。サービス拡充のために不可欠とはいえ、この評価システムが真面目な彼の個性をどんどん抑圧して押し潰しているのは間違いない。
と同時に、顧客たちもまた、大事なパーティーやイベントで同サービスを通じて得た完璧なパートナーを同伴することで「人からよく見られたい」「自分自身が高く評価されたい」という思いを満たそうとしている。
この点、現代風にいえばソーシャルメディアでマウントを取り合う潮流とも重なるが、もともとヨーロッパの貴族社会や上流社会をはじめ昔から絶えず発現してきた欲求ともいえるだろう。

『PEACOCK/ピーコック』© 2024 NGF GEYRHALTERFILM CALA FILM ZDF/ARTE
ピーコックとカモが象徴するもの
本作はこれらのテーマ性を巧みに織り込みつつ、まるで人間そのものの生態を探究するかのように、我々を不可思議なタッチで飄々と惹きつけていく。
この映画が輝きを失わない理由の一つは、明らかに主演アルブレヒト・シュッフの醸し出すユニークさにある。エドワード・ベルガー監督版『西部戦線異状なし』(22)で大注目を集めたドイツ人俳優の彼が、何を考えているのか、何を感じているのか、全く掴めない表情でこの役を体現し続ける様は一見に値する。ある種の観察映画ともいうべき面白さがそこには浮き彫りになっているのだ。
そしてもう一つ、この映画では効果的に「色彩」を盛り込む独創的な表現性が際立つ。最たるものはタイトルにもあるピーコックとカモの対比だろう。
いうまでもなく、どんな役割(役柄)でもソツなく取り込み、七色の色彩に染まることのできるマティアスはまさにピーコック。ただし、その代償としてすっかり己の色を失ってしまった。
一方、褐色の毛で覆われ「ガアガア」という鳴き声とともに登場するカモは、いつも口うるさくガミガミと機関銃のような罵詈雑言の止まらない高齢男ヨハンのようだ。
ピーコックとカモ。マティアスとヨハン。二者はまるで両極端、あるいは一枚のカードの表裏のような存在と言える。そして双方とも愛想を尽かした恋人や妻に家を出て行かれた似た者同士。宿敵のように見えながら、その実、互いに意識し合い、学び合える点も多い。きっと、マティアスはもう少しヨハンのように自我をストレートにあらわにすべきだし、逆にヨハンはもっと自我を抑えられるようになれたら全てはちょうど良いのだろう。