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『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サントが検証する過ぎ去った時代のグルーヴ

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『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サントが検証する過ぎ去った時代のグルーヴ

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ショットガンの両端に生まれる感情



 ラジオやTVを巻き込んだ公開型の犯罪。「インディアナポリスの声」と評されるフレッド・テンプルに憧れていたトニーにとって、自分の声がラジオの電波に乗ることは、どれほど高揚する出来事だっただろうか。トニーの3日間の事件はテレビを巻き込み、さらに大きくなっていく。『デッドマンズ・ワイヤー』には複数の高揚が描かれている。TVリポーターのリンダ・ペイジ(マイハラ)は、スクープのチャンスに目を輝かせる。高揚するリンダの叫びが、パトカーのサイレンの音によく似ている。疑似ニュース映像や疑似報道写真等によって、この事件を取り巻く複数の視点が示されていく(以前にガス・ヴァン・サントは、TVメディアと犯罪が交錯する映画として『誘う女』(95)を撮ったことがある)。FBIと地元警察は、トニーに“ステージ”を用意する。トニーがディックにショットガンを向けたまま、主張を展開する様子がTVで生放送される。生放送中にどちらかが撃たれる瞬間が映されてしまう可能性がある。綱渡り極まる事態だ。演説中にトニーは、高揚状態の後、急に涙を流す(実際の映像でも同じであり、彼がかなり危険な状態にあることを感じさせる)。



『デッドマンズ・ワイヤー』© 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.


 『デッドマンズ・ワイヤー』は、先行するドキュメンタリー作品『Dead Man’s Line』の劇映画化ともいえる(忠実な再現シーンは少ないが)。ガス・ヴァン・サントはTVドラマシリーズ「フュード/確執」(17~)のシーズン2の第3話で、メイスルズ兄弟が撮ったトルーマン・カポーティのドキュメンタリー作品にインスパイアされた、実験的ともいえる作品を撮っている。『デッドマンズ・ワイヤー』におけるズームの使用などは、70年代アメリカ映画へのオマージュであるだけでなく、ドキュメンタリー作品の文脈が感じられる(余談だが、劇場用長編の制作を休んでいる間にガス・ヴァン・サントがアレッサンドロ・ミケーレと共に手掛けた、ビリー・アイリッシュの出演回もある「Ouverture of Something That Never Ended」シリーズ(20)は、必見の傑作である)。


 オースティン・コロドニーは、動物園の清掃員をこなしながら『デッドマンズ・ワイヤー』の脚本を書いたという。インスパイアされた作品として、本作と同じく民衆に支持されていく犯罪者が描かれた『狼たちの午後』(75)や、『アンカット・ダイヤモンド』(19)、『ファーゴ』(96)を挙げている。『狼たちの午後』で若き理想主義者を演じていたアル・パチーノが、体制側の父親を演じているという皮肉。父親に力添えを拒否され、打ちひしがれているディックに、トニーはタバコを手渡す。ディックは笑う。“笑うしかない”とは、まさにこういう状況のことなのだと。モンゴメリーの演技が際立っている。コロドニーの言葉でいう「ショットガンの両端」にいる者同士に共感が起こる。『デッドマンズ・ワイヤー』には、トニーとディックの“ラブストーリー”のようなところがある。目の覚めるようなポップミュージックの使い方を含め、不条理なユーモアがあり、その不条理さは階級や属性と関わっている。トニーはアイスクリーム屋の息子に望んでなったわけではない(彼は父親から虐待されていた)。ディックもまた、あの父親の息子に望んでなったわけではない。




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