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『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サントが検証する過ぎ去った時代のグルーヴ
2026.08.06
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インディアナポリスの声
「インディアナポリス、声を聞かせてよ」
地元の有名ラジオDJフレッド・テンプル(コールマン・ドミンゴ)が放つ、「ジョーカー、ジョーカー」という言葉に導かれるように、車を運転するトニー・キリシス(ビル・スカルスガルド)が登場する。車のナンバープレートにはクレイジーな「TOPLESS」の文字。細長い段ボールの小包を持ったトニーは会社のビルに乗り込み、社長との面談を希望する。たまたまフロリダに出かけていた社長の代わりに、息子のディック・ホール(デイカー・モンゴメリー)がトニーに応対する。ディックは人質にとられる。トニーはディックの首と自身の首をワイヤーとショットガンで固定し、もし何かあれば自動発砲される独自の装置を準備していた。
トニー・キリシスの事件は、ハーヴェイ・ミルクが暗殺される1年前、エルヴィス・プレスリーが亡くなり、ニューヨークの大停電が起きた1977年という激動の年の2月に起きている。インディアナポリスに住む独身男性が、不動産ローン会社メリディアン・モーゲージ社の社長の息子ディック・ホールを人質に取り、社内に立てこもる。ディックにショットガンを向けたまま路上を歩き、パトカーを乗っ取り、自宅に向かう。警官は手出しをすることができない。トニーは自身が購入した土地に、“庶民のためのショッピングセンター”を建設する計画だったが、土地購入の際の借金の滞納で追い詰められていた。

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トニーは、メリディアン・モーゲージ社に計画を妨害されたと感じていた。ビジネスチャンスの匂いを嗅ぎつけた不動産会社が、土地を横取りしようとしていると。怒れる労働者階級であるトニーは、不動産会社のやり方を卑劣だと告発する。アメリカンドリームの搾取だと。トニーには大義があった。彼が一番に望んだのは、不動産会社の社長M・L・ホールによる、全国の電波を通した謝罪だった。
冒頭のラジオDJによる「ジョーカー、ジョーカー」という言葉の不穏な響きが象徴するように、『デッドマンズ・ワイヤー』(25)は、声の映画である。トニー・キリシス事件を追った傑作ドキュメンタリー『Dead Man‘s Line』(18)では、実際のトニーの声を聞くことができる。録音され、電波に乗ったトニーの発声は、マーティン・スコセッシの映画におけるジョー・ペシや、モハメド・アリのアジテーション的なパフォーマンス、何よりトニーが憧れるラジオDJが曲を紹介するときの言葉のリズム感に似ている。特にDJと話す際の、「I’m a not rich man. I’m a poor man~(金持ちじゃない。貧乏人だ~)」から始まるフレーズと発声の抑揚には、ラップのようなパンチ力がある。インディアナポリスの声。トニー・キリシスはジョーカーのように、格差社会に不満を持つ民衆に支持されていく。