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『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サントが検証する過ぎ去った時代のグルーヴ
2026.08.06
かつてあった地域社会へのラブソング
トニーには奇妙な軽快さがある。『デッドマンズ・ワイヤー』の刑事が語っているように、この地域におけるトニーの評判は、最高のときもあれば、最悪なときもあったという。実際、トニーは事件以前にも問題行動を起こしている。警察がトニーのことをよく知っているのは、そのときの縁があるからだ。怒ると何をするか分からない危険な人物だと認識されつつ、愛されてもいたトニー。彼に居場所があったのは、現代ではもう無くなってしまった地域社会のつながりがあったからかもしれない。

『デッドマンズ・ワイヤー』© 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
トニーをよく知る地元出身の刑事たちは、FBIから派遣されてきた人物によるチャート化されたトニーの心理分析を、お前にトニーの何が分かると言わんばかりに鼻で笑おうとする。トニーを銃で撃つタイミングや手段について話をしている最中、ある一人の刑事は、気分が悪くなり嘔吐してしまう。トニーは地元の古い仲間であるように刑事たちと接するが、余所者であるFBIにはきつく当たっている。実際、トニーのことを高く評価する警察官がいることに驚いたという報告が残されている。問題のある人物を受け入れる地域社会のつながりがあったことが推察される。あらゆることがシステマティックになった現代では、おそらくトニーにここまでの時間は与えられない。
晩年のディック・ホールは、事件について語っている。人質に取られている間、トニーとは親友のような関係だったと。父親への恐怖は2人の共通点といえる。ただ、世の中がトニーの味方になったのは理解できなかったと。トニーは自分の声が憧れのラジオDJの電波に乗ったことにより、承認欲求をどんどん加速させていく。かつて警察から逃走する主人公を“ラスト・アメリカン・ヒーロー”と讃えたのは、『バニシング・ポイント』(71)のDJスーパー・ソウルだった。メディアはトニーの怒りを広める。計画的、且つ、あきらかな犯罪行為であるにも関わらず、民衆はトニーを英雄にする。法の外へ。事実はフィクションよりも本当に奇妙だ。リアルタイム公開型の犯罪、事件が迎えることになる結末も含め、このようなことは二度と起こらないだろう。ガス・ヴァン・サントは矛盾を解決せずに、人々のありのままの奇妙さを祝福する。「インディアナポリス、声を聞かせてよ」。DJ、最高の音楽で世の中をグルーヴさせてくれよ。『デッドマンズ・ワイヤー』は、もう二度と帰ってこない、ある時代の、ある地域社会へ向けられた軽妙洒脱なラブソングである。
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『デッドマンズ・ワイヤー』
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配給:KADOKAWA
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