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『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サント監督 モラルと共感のはざまで 実話を描く【Director’s Interview Vol.575】
映画としては7年ぶりとなるガス・ヴァン・サント監督の新作が『デッドマンズ・ワイヤー』だ。1977年、インディアナポリスでトニー・キリシス(ビル・スカルスガルド)と名乗る男が、不動産ローン会社に全財産を騙し取られたとして、社長の息子で会社の役員(デイカー・モンゴメリー)を人質に取り、同社からの謝罪と補償を要求した事件を描く。
キリシスはマスコミを利用して自分の訴えを報道させ、彼の言い分に世論は徐々に傾き、共感を得ていく。緊迫した事件ではあるが、ラジオDJ(コールマン・ドミンゴ)とのやりとりや、どこかとぼけた人間味を感じさせるキリシス像に、彼を断罪しないヴァン・サント監督の思いが透けてみえ、観終わったあとには「爽快」とすら言える感覚が残る。本作への思いを彼に訊いた。
『デッドマンズ・ワイヤー』あらすじ
インディアナポリスに住む中年の独身男性トニー・キリシス(ビル・スカルスガルド)は不動産ローン会社メリディアン・モーゲージ社に全財産を騙し取られたとして、同社に押し入り社長の息子で役員のディック・ホール(デイカー・モンゴメリー)を人質に取り立てこもりを始める。自分の首と人質の首をショットガンとワイヤーで固定、ヘタに動けば自動発砲される“デッドマンズ・ワイヤー”という装置を使い、同社からの謝罪や補償を訴えた。地元警察が全く身動きを取れない中、トニーはメリディアン・モーゲージ社の悪を暴露しようと人気ラジオ番組に電話をかけ番組のDJフレッド・テンプル(コールマン・ドミンゴ)を巻き込んで自分の訴えを電波に載せた。モーゲージ社の代理人がTVカメラの前でトニーの要求を受け入れるような声明を発表するが、彼はM・L・ホール自らの謝罪がまず重要としてこれをすべて拒否。事件が好転する兆しが見えない中ついにFBIが出動しトニーのプロファイリングを始め、警察は突入の準備を進める。また、現場には爆弾が仕掛けられている疑いがあり爆弾処理班が出動するなどトニーに対する包囲網は徐々に固められていくのだった。そんな中、トニーは次なる一手として犯行現場に米3大ネットワーク局を始めとするメディアを呼び、ディックにデッドマンズ・ワイヤーを突きつけたままの記者会見を行う。メディアを通したトニーの訴えは世論を二分し、アメリカ中に大混乱を巻き起こす。そして、ついにトニーとM・L・ホール社長(アル・パチーノ)の電話がつながるのだが…。
Index
「負け犬」的なキャラクターの魅力
Q:前作『ドント・ウォーリー』(18)から7年ぶりの新作映画ですね。その間もテレビシリーズなどを制作されていますが、久々に映画にカムバックされた心境はいかがでしたか。
ヴァン・サント:そうですね、これだけ時間が掛かったのはいくつかの要因があるのですが、まずパンデミックがあり、その上ストライキがありました。パンデミックのなか、ローマへ行って撮影したのが、ファッション・ブランドのグッチ製作によるシリーズ、「Ouverture of Something that Never Ended」という作品です。ファッションを見せるものでしたが、単なる広告ではなくキャストを配したストーリー性のある作品で、私としては長編映画のような感覚でした。劇場では公開されていませんが。
その後も実現には至らなかったものの、水面下で動いている企画は常にあったんです。そんな中、知り合いが関わっていたトルーマン・カポーティの「叶えられた祈り」(未完。本人の死後、1986年に出版された)にインスパイアされたドラマシリーズ「Feud」(17〜 TV)の話が来た。自分も以前から強い関心を持っていた題材だったので、引き受けました。長編映画数本分に相当するような6話分を担当しています。ただわたし自身は、当時はあまり意識していなかったのですが、今こうして映画の世界に戻ってみると、テレビと映画の間にはやはり隔たりがあると実感しますね(笑)。

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Q:では本作に惹かれた理由は何でしたか。監督を打診されたと聞いていますが、すぐにやりたいと思われたのでしょうか。
ヴァン・サント:まるで宇宙が実現に向けて動いているかのような、そんな不思議な巡り合わせを感じました。というのも、わたしに話が来たときはケンタッキー州ルイビルで撮影が行われることや、撮影までの期間が非常に短いことがすでに決まっていた。プロデューサーのカシアン・エルウェスは、わたしが脚本を受け取ったその日のうちにでもロケ地へ向かうような勢いでした。何をするのかもよくわからないまま、とにかくすぐに動き出さなければならないという、その状況自体にわたしは興味を惹かれました。
もちろん、脚本も読まずに「イエス」と答えたわけではありません。脚本を読んだらとても気に入ったのです。トニー・キリシスという人物の個性がはっきりと見えてきましたし、脚本には彼の実際の声を聞くことができるURLも記載されていたので、その「生身の人物」に触れて、とても興味深い人だと感じたんです。読み始めてすぐに、彼が必死な状況にあること、つまり、かつてわたしが描いたことのある役柄にも通じるような、崖っぷちの「負け犬」的なキャラクターであることは明らかでした。惹かれたのにはそういった要素もあったと思います。
Q:たしかに、ちょっと『ドラッグストア・カウボーイ』(89)の主人公を彷彿させるところがありますね。クライム・ストーリーというところも同じです。
ヴァン・サント:そうですね。逆に言うとあの作品は『デッドマンズ・ワイヤー』を彷彿させる。『誘う女』(95)とも似ているところがあります。わたしの映画に出てくるのはアウトサイダー的なキャラクターが多い。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)のときは逆に、自分に扱えるだろうかと不安になりました。あれはアウトサイダーというよりヒーローと言えるような役柄だったので。ただ、犯罪という要素そのものに惹かれるわけではありません。