1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サント監督 モラルと共感のはざまで 実話を描く【Director’s Interview Vol.575】
『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サント監督 モラルと共感のはざまで 実話を描く【Director’s Interview Vol.575】

© 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サント監督 モラルと共感のはざまで 実話を描く【Director’s Interview Vol.575】

PAGES


モラルと共感のはざまで



Q:実在する人物ということでは、2024年の12月にもルイジ・マンジョーネ*の事件がありました。彼は殺人犯ですが、ネットで人気者になるという現象が起きましたね。こうした事件は、あなたに何か影響を与えましたか。


ヴァン・サント:いえ、あの事件が起こる前からこの映画の準備をしていたので、あれは偶然の一致でした。ビル(・スカルスガルド)のスケジュールの都合で結果的に予定が少し遅れましたが、2024年の11月に撮影するつもりだったのです。


ルイジ・マンジョーネの件は、システムに立ち向かうひとりの人間という構図が、本作と重なりますね。ちょうどその頃、本作で助監督を務めてくれるスタッフをリクルートしたのですが、彼はルイジを支持しており、セントラル・パークに彼の彫像を立てるべきだと主張していた。それにはちょっと衝撃を受けました。と同時に、そういう見方が本作のテーマと結びついていることも確かで、それは大きな気づきとなりました。


いま思い出しましたが、わたしの隣人がインディアナ州の出身なんですが、彼女の友人がキリシスの裁判を担当した判事の知り合いだったそうです。その人から聞いた話によると、裁判でキリシスが「心神喪失」の評決が下されたとき、スタジアムである試合が行われていて、何の試合だったかは思い出せないのですが、キリシスが罪を免れた、つまり責任能力なしと見做されたことが知らされると、スタジアム中がまるで沸き立つような大歓声に包まれたのだそうです。



『デッドマンズ・ワイヤー』© 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.


Q:映画の中でキリシスがある意味、好感度のあるキャラクターとして描かれていますが、作り手として道徳的なスタンスをどこに置くかということは重要でしたか。観た人それぞれに考えさせるということを意識されていたのでしょうか。


ヴァン・サント:そうですね。わたしとしては、トニーが善と悪のはざまでさまざまな可能性に揺れ動くことをつねに描いていたつもりです。それによって観客の判断力が試されるような。彼はわたしたちがよく知る、怒れる労働者のひとりです。何年も不条理な大きなシステムに対して怒りを抱えてきた、何の権力も持たない平凡な男。その点でわたしたちは大きな共感を彼に寄せると思います。ただ一方で、道徳的な曖昧さを持った危険な男でもあることも確かで、それを伝えることもまた大切でした。


*2024年12月4日にアメリカの医療保険大手ユナイテッドヘルスケアの最高経営責任者ブライアン・トンプソンがニューヨークで撃たれ死亡した事件の犯人。マンジョーネは同社の保険金の支払い拒否を激しく糾弾していた。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『デッドマンズ・ワイヤー』ガス・ヴァン・サント監督 モラルと共感のはざまで 実話を描く【Director’s Interview Vol.575】