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『白パンと独裁者』観客の感情を告発する、少年の純真に潜む恐ろしさ

©2025BomberoInternationalGmbh&Co.Kg

『白パンと独裁者』観客の感情を告発する、少年の純真に潜む恐ろしさ

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画未見の方はご注意ください。


『白パンと独裁者』あらすじ

第二次世界大戦末期、本土へ向かう爆撃機が上空を飛行する中、ドイツ北部に位置するアムルム島はどこか美しく、楽園のような静寂を保っていた。戦地から疎開してきた12歳の少年ナニングは、父に代わり農作業で得たわずかな食糧で身重の母と幼い弟、叔母ら家族を支えている。 島民たちが終戦を待ち望むなか、ナチス国家、ひいてはヒトラーへの忠誠を信じて疑わない母・ヒレ。しかし、ラジオがその死を告げた瞬間、彼女は取り乱し、家族の日常も一変していく。生気を失い、食事を拒むヒレが唯一欲したのは、たっぷりのバターとはちみつが塗られた白パンだった─。


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恩師の記憶を元に描く、アウトサイダーの物語



 ドイツ社会のアウトサイダーや犯罪者などのドラマを描いてきた、映画監督ファティ・アキン。そんな彼が、ドイツ映画界で俳優・監督として活躍した恩師ハーク・ボームの幼少期の記憶をもとに、彼と共に映画化した一作が、『白パンと独裁者』(25)だ。


 その記憶から生み出されたストーリーは、一見、第二次世界大戦の苦労とノスタルジーが絡み合った成長譚であるように感じられる。しかし、そこには観客にも波及していく、真に恐ろしいメッセージが込められているのではないか。ここでは、子どもの目線を通した世界が暗示する、ファティ・アキン監督ならではの“油断ならざる”本作の奥行きを考えていきたい。


 ドイツ北部の北フリジア諸島に実在する「アムルム島」。アザラシや渡り鳥が訪れ、広大な白い砂浜が美しい場所として知られる。本作の主人公である少年ナニング(ジャスパー・ビラーベック)は、第二次世界大戦時、家族とともに自分のルーツがある、この島に疎開しに来た。彼はそこで、ファティ・アキン監督作らしく、アウトサイダー……つまりは部外者として扱われることになる。


 父親は地位のある軍人、母親ヒレ(ローラ・トンケ)はナチス・ドイツとアドルフ・ヒトラーに心酔しているという環境で育ってきたナニング。彼自身もナチス・ドイツ政権下の青少年団「ヒトラー・ユーゲント」の下部組織「ドイツ少年団(ユングフォルク)」として、ナチスへの忠誠を誓っているようだ。



『白パンと独裁者』©2025BomberoInternationalGmbh&Co.Kg


 だが、仲良くなった友達ヘルマン(キアン・ケップケ)をはじめ、島民たちは本土ほどナチス・ドイツに協力的ではなく、ファシズムが行き渡っていないように見える。そこには、本土と島という文化的な事情による温度差もあるのだろう。ときに排他的な面も見せる島民たちだが、この場合そうした振る舞いが、むしろナチス・ドイツの熱狂と距離を置く理性的な態度にも見えてくる。


 ヘルマンと一緒に島の農家を手伝って、貴重なミルクを分けてもらったナニングだったが、ここでいたたまれない出来事が起こる。農家の女性テッサ(ダイアン・クルーガー)が「戦争がもう終わる」という趣旨の言葉を発したことを、ナニングが自宅の食卓で何気なく言ってしまったために、母親ヒレがそのことを軍に密告してしまうのである。


 こうした戦時下で末端の人々が監視し合う構図は、日本でも「隣組」という町内会の相互監視システムがあったことで、日本人にとっても理解しやすいところだ。このようなシステムの被害者側の話は、映画でよく描かれるが、抑圧する加害者側の家庭の視点でドラマが作られているところが、本作の個性だといえる。


 しかしそんなヒレも、ヒトラーが命を断ったことをラジオ放送で聴いて、大きな衝撃を受ける。出産の影響もあり、食欲が減退し弱ってしまうのである。戦時の食糧難の中、ナニングはヒレのために、手に入りにくい小麦粉を使った白パン、蜂蜜、バターを手に入れようと、敗戦後の島内を奔走する。その過程で、夜に出会ったフクロウが首を回す光景や、海鳥が群れをなして飛ぶ光景など、少年の感受性を刺激する島の景色がみずみずしく映し出される。




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