偶然と迷路――若者たちの漂流と連鎖・断絶する関係性
物語は、のちの『カップルズ』(96)へと連なる都市の迷路を漂流する若者たちのザラついた群像を描きつつ、『海辺の一日』(83)から『ヤンヤン 夏の想い出』(00)まで一貫して響くエドワード・ヤン作品の主旋律――男女関係の亀裂や残酷さ、パートナーシップの機能不全を並行して提示する。新作執筆に行き詰まった小説家イーフェン(コラ・ミャオ)は、医師であり出世主義者の夫リーチョン(リー・リーチュン)と暮らしているが、文学への理解を欠く夫との間にはすでに深い断層があった。やがてイーフェンは、会社を経営する元恋人シェン(チン・シーチェ)との関係を再び結び直し始める。一方その頃、ケガで身動きの取れないシューアンが始めたイタズラ電話が思わぬ連鎖を生み、無関係だったはずの彼らの人生が奇妙にリンクしていく。

『恐怖分子 デジタルリマスター』© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
複数の人物と時間軸が苛烈な暴力性を帯びながら交錯し、やがて複雑に絡み合い収束していく。本作はそんな“マルチスレッド”型のストーリー構成を、都市の呼吸と人間関係の裂け目の中でソリッドに研ぎ澄ませた作品である。台北という大都市を舞台に、偶然に連動する運命と異様な緊張の網の目がパズルのように張り巡らされる。全体のシナリオはまずエドワード・ヤンと共同脚本家シャオ・イエーが作成し、さらに撮影直前から当時気鋭の映画批評家だったチェン・クォフー(のちに『宝島/トレジャーアイランド』(93)を監督)が脚本・演出顧問として参加。現場で脚本を書き直しながら撮影を進めるという方法が採用された。