視覚の衝突――“キメ画”が刻む都市の断片
その意味では即興的なダイナミズムが脈動する作品だが、一方で“キメ画”の凄さと多さこそが『恐怖分子』の際立った特徴である。リニアな時間軸から“ある瞬間”を切断したようなショットの数々が美しく鋭く映え、我々観る者を戦慄させる。例えば、何度も挿入される巨大な球形ガスタンク。あるいは、警官の銃弾を受けて床を弧状に転がるコカコーラの空き缶。その中でもとりわけアイコニックなヴィジュアルとして知られるのが、シャオチャンが盗み撮ったワン・アン演じるシューアンの顔写真だ。
壁一面の大きさに引き伸ばされ、何枚にも分割されたポートレートとなり、かつて不良たちが溜まっていたアジトの一室に貼られている。やがて部屋に風が流れ込むと、写真の断片が一枚一枚、不規則に揺れ、ばらばらに捲れ上がる。ほとんど現代アートのインスタレーションのような視覚的強度だが、これに熱烈なオマージュを捧げたのが安里麻里監督の『アンダー・ユア・ベッド』(19)である。高良健吾演じる主人公・三井が、密かに恋する千尋(西川可奈子)の部分拡大コピーをつなぎ合わせ、ポスターのように壁へ貼りつめているカット。ストーカー男性の歪んだ執着と視覚的狂気を示す場面だが、同時にその“像”の構成が異様にスタイリッシュで、“かっこいい”と感じさせてしまう面白さと危うさがあるのだ。

『恐怖分子 デジタルリマスター』© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
他にも青年シャオチャンが撮影したモノクローム写真は劇中で断片的にインサートされ、物語の流れに微細な歪みを生む。『恐怖分子』はしばしばミケランジェロ・アントニオーニ監督の『欲望』(66)からの影響が指摘される。『欲望』で主人公のカメラマンが写真に写り込んだ殺人の気配を追うように、本作でも若い写真家が事件の瞬間と少女を捉え、そのイメージが人々の運命を変質させていく。都市における孤独、現実と虚構の境界を見据える冷徹な視線は両者に共通している。
また、ヤンはここで“イタズラ電話”というモチーフを導入する。現代で言えばSNS的なネットワーク事故に近い発想だが、無関係な複数の人物が偶然の接触によって連鎖的に揺らぎ、台北という都市の網の目が不規則に震え始める。その震えは、急速に近代化する台湾社会の歪みや暴力の循環を露わにする構造的な力として働く。