構造と運命――階層・暴力・孤独・欲望が編成する世界の流動
都市には雑多な人々が生息し、時間は容赦なく流動する。後半で明らかになるように、シャオチャンは裕福な家庭の子息であり、医師リーチョンと小説家イーフェンの夫妻もアッパーミドルに属する生活者だ。彼らの倦怠や絶望は、富裕層や中産階級が抱える精神的空洞の象徴と言える。一方、アウトサイドに生きるシューアンたち不良グループとの階層差は決定的だ。シューアンの母親はすでに亡き外国人男性との間に娘を産んだようで、米国のコーラスグループ、ザ・プラターズの「煙が目にしみる」(Smoke Gets In Your Eyes)のレコードを流し、感傷に沈む。シューアン自身はデニムパンツの膝下にナイフを仕込み、売春目的の男を誘い、刃を突き立てる。彼らの世界は断絶し、宙吊りのまま不安定に放置されている。

『恐怖分子 デジタルリマスター』© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
エドワード・ヤンはこの多声的な様相を、単なる社会描写としてではなく、都市の構造そのものとして捉える。人物たちは互いに理解し合うことなく、ただ同じ都市をすれ違い続ける。その不安はサルトル的な“嘔吐”にも似た存在の揺らぎを帯びるだろう。階層・暴力・孤独・欲望が都市の内部で呼応しながら連鎖を起こす。こうして『恐怖分子』は、極めてエドワード・ヤン的な都市論として立ち上がる。彼が描くのは、都市そのものが人間の運命を編成し、分断し、狂わせていく――そんな“構造としての都市”の姿である。
英語のタイトルは『テロライザーズ』(Terrorizers)。ちなみに2021年、ホー・ウィディン監督が撮った台湾映画『青春弑恋』は、英題が同じ『テロライザーズ』であった。なお『恐怖分子』のエンディングに流れる主題歌は、当時ヤンのパートナーであり、『台北ストーリー』(85)に主演した人気歌手・女優のツァイ・チンが歌っている。
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「シネマトゥデイ」「Numero.jp」「Safari Online」などで定期的に執筆中。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当。
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