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『女は女である』ヌーヴェルヴァーグの幸福な季節へ花束を

(c) 1961 STUDIOCANAL - Euro International Films,S.p.A.

『女は女である』ヌーヴェルヴァーグの幸福な季節へ花束を

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ヌーヴェルヴァーグの最後の花束



 アンジェラは子供を欲しがっている。彼女は古風な女性のように見えるが、キャバレーで働く自立した女性でもある。アンジェラは、時代の要請の板挟みに合っているといえる。アンジェラはエミールが働く書店で、「出産の知識」に関する雑誌を手に取る。妊活の記事が載った雑誌の横には、『地下鉄のザジ』(60)のカトリーヌ・ドモンジョが表紙を飾る映画雑誌が並んでいる。パリの都市生活者が遭遇する広告のイメージは、古風な母性と自由な少女=ドモンジョを同時に称賛しているように映る。ストリップ劇場における素早い着替え。アパルトマンにおける家事。アンジェラは忙しく働いている。アパルトマンの階段の入り口には、キスをしている若い恋人たちがいつもいる。階段を上がれば、隣人が売春をしている。喜劇と悲劇のどちらに転ぶのか。アンジェラは隣り合うイメージとイメージの間で板挟みに合いつつ、そのどちらにも転び、どちらにも転ばず、イメージを超越する。アンジェラという女性は、異なる2つの人格を持っているわけではない。“天使(Ange)は天使である”という問い。“女は女である”というトートロジーは、“アンジェラはアンジェラである”、“アンナはアンナである”を言い換える問いとなり、ゴダールはアンナ・カリーナという個人を、ただ讃えている。デンマークからパリにやってきた、歌うことが大好きな少女を讃えている。



『女は女である 4K修復版』(c) 1961 STUDIOCANAL - Euro International Films,S.p.A.


 『女は女である』には、ヌーヴェルヴァーグが幸福だった季節が記録されている。友情出演しているジャンヌ・モローとの共演シーンで、ベルモンド扮するアルフレッドは、モロー主演の『突然炎のごとく』(62)の話を振る。モローはベルモンドとの共演作『雨のしのび逢い』(61)の原題「モデラート(・カンタービレ)!」と返す。アルフレッドがカフェの窓のカーテンを開けると、アニエス・ヴァルダが妊婦を撮った短編ドキュメンタリー『オペラ・ムッフ』(58)の映像がTVモニターに映っている。ゴダールとカリーナは『女は女である』の撮影後に結婚式を挙げ、マスコミに報道される。アンナ・カリーナが表紙の「Paris Match」誌には、“ヌーヴェルヴァーグの花嫁”というキャッチコピーが付けられている。2人は翌年に撮影されたヴァルダの短編に出演する。『マクドナルド橋のフィアンセ』と名付けられたサイレントの短編は、『5時から7時までのクレオ』(62)に挿入されている。バスター・キートンのようなゴダールが、黒眼鏡を外すクローズアップのショットが秀逸だ(ヴァルダはゴダールの瞳の美しさを撮りたかったという)。黒眼鏡のせいで何も見えないというゴダールのネタは、『女は女である』における2人組の男性の台詞から引用されている。『マクドナルド橋のフィアンセ』の撮影について、ヴァルダは次のように回想している。


 「あの日の光、あの場所で皆が抱いていた明るい気分は、私にとって、私たちが体験したヌーヴェルヴァーグそのものを象徴する思い出として今も残っている。想像力が支配し、友情が生き生きと息づいていたあの時代。」*3


 『女は女である』は、ゴダールとカリーナが、そしてヌーヴェルヴァーグがもっとも幸福だった季節に撮られた、祝祭的な映画である。以前も以後も存在しない、ヌーヴェルヴァーグの最後の花束のような映画である。幸福は幸福である。花束は花束である。いまはもうこの世からいなくなってしまった、ゴダールとカリーナの運命的な出会いに花束を。嵐のように過ぎ去っていった2人の幸福な季節に花束を。


*1 Liberation[Anna Karina : libre comme l’ère]

*2 「Le ruisseau des singes」Jean-Claude Brialy

*3 「Godard - Edition définitive: biographie」Antoine de Baecque



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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『女は女である 4K修復版』

特集「エッセンシャル・ヌーヴェルヴァーグ」

シネマリスほか全国順次開催中

配給:ザジフィルムズ

(c) 1961 STUDIOCANAL - Euro International Films,S.p.A.

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