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『ヒンド・ラジャブの声』底知れぬ痛みと衝撃。それでもなお、向き合わずにいられない現代の重要作

Ⓒ MIME FILMS - TANIT FILMS

『ヒンド・ラジャブの声』底知れぬ痛みと衝撃。それでもなお、向き合わずにいられない現代の重要作

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実際の声が忘れえぬ瞬間を刻む



 この事件が起こった当時、助けを求めるヒンドの悲痛な叫びはSNSやニュース映像などを通じて全世界へと拡散された。


 それらに触れた人ならお分かりだろうが、本作では緊急通報センター内のやりとりはパレスチナ出身俳優らの演技によって再現ドラマとして構成されているものの、ヒンドの音声に関しては全て実際の音源が用いられている。つまり本作は、ドキュメンタリーとドラマという二つの要素を掛け合わせたハイブリッドな一作なのだ。


 さらにカウテール・ベン・ハニア監督が選び取ったのは、恐怖にさらされるヒンド側の状況や表情をいっさい明示することなく、あくまで通報の受け手である緊急通報センターのスタッフの視点や感情だけで、ほぼワンシチュエーションで本編を描ききるという手法である。


 響き渡るのはヒンドとの「音声通話」のみ。その声の波形がモニター上で絶え間なく上下する様は、まるで生存状態を示す心拍計のようにも見える。



『ヒンド・ラジャブの声』Ⓒ MIME FILMS - TANIT FILMS


 実は緊急通報センターのスタッフを演じる俳優陣も、カメラが回った時に初めてこの音声データに触れたのだとか。ヒンドの叫びに合わせて悲痛な面持ちで演じ続ける彼らの姿もまた、一つの偽らざる生の反応であり、記録と呼ぶべきものなのだ。その中の一人は撮影中、パニック発作のような状態に陥ることもあったと述懐している(*1)。


 ハッとさせられるのは、物語の中盤以降、緊急通報センターのスタッフが少女との緊迫したやりとりをスマートフォンで撮影し始めるところだ。なかなか進展しない状況を、SNSに投稿し世論の力を借りて動かそうとするのである。


 ある意味、あのスマホは世界へ開かれた窓であり、無数の人々の瞳でもある。映画の中にもう一つのカメラが介在するというメタ構造により、本作は没入した主観だけではない「客観」さえも浮き彫りにしながら、劇場の客席に座る我々を傍観者のままで留めることなく、関係性の内側へと引き込んでいくわけだ。




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