まだ見ぬ我が子の分身
主人公のブライアンは、医療品を運ぶ配達員。彼は恋人のミシェル(サラ・パクストン)から妊娠を告げられているが、まだその覚悟ができていない。演じるオースティン・エイブラムスによれば、ブライアンは「一人前の男になろうとしていて、自分の足で立つ一歩手前にいる」(*5)キャラクター。要するに、ちょっとダメな男なのだ。
ある晩ブライアンは、「報酬は2倍」という条件につられて、雪深い山あいのラクーンシティ総合病院までの配達を引き受ける。ところがその道中、恋人と電話で話している最中に、道へ飛び出してきた女性を車ではねてしまう。悪夢の一夜は、こうして幕を開ける。
ブライアンが抱えて走る緑のクーラーバッグ。その中身を、彼は移植用の臓器だと勝手に思い込んでいる。雪原を歩き、モンスターから逃げ、下水道を這いずり回りながら、彼はそれを一度も手放さない。

『バイオハザード』
恋人のお腹に宿った命から逃げた男が、箱に入った命と思しきものを必死に抱えて走る。このクーラーバッグは、まだ見ぬ我が子の“分身”なのではないか。だとすれば、彼が命がけでこなそうとしている配達ミッションは、いずれ引き受けなければならない「父親」という役割の予行演習だ。
旅の序盤、ブライアンがたどり着いたのは、明かりの灯る農家。そこで彼に襲いかかるのは、彼がはねた赤いサンドレスの女性と、その夫の死体が合体したモンスターだ。女性の体から伸びた触手が、夫の頭を彼女の裂けた首の傷口へとズルズル引きずり込んでいく。
夫婦が、文字どおりひとつのカラダになる。家族を持つことにおびえる男の前に現れるものとして、これ以上の悪夢はない。
ストーリーのターニングポイントは、トンネルに停まったキャンピングカーのシーンだ。車内に取り残されていたのは、幼い少女ひとり。両親はすでに息絶えていた。
皮肉なことに、ブライアンはここで初めて「親」の役割を引き受けようとする。親を失った子どもに手を差し伸べるが、少女はすでに感染していた。モンスターへと変貌した彼女に噛みつかれ、ブライアンは守るはずだった彼女を、自分の手で殺してしまう。
初めて親になろうとしたその瞬間に、守るはずの子どもが牙をむく。「父親になるのが怖い」という不安を、この映画はこれ以上ないほど残酷に突きつけてくるのだ。