※本記事は物語の結末に触れているため、映画未見の方はご注意ください。
『八つ墓村』あらすじ
内定ゼロ、彼女ナシ。大学生・井川辰弥のもとに舞い込んだ母の訃報。奇妙な探偵・金田一耕助に誘われ、岡山県山奥に潜む「八つ墓村」を訪れる。封印された、ルーツと怨念の記憶が目を覚ます。村では、名家・田治見家の莫大な遺産の相続人である辰弥の帰還に合わせたかのように、不可解な連続殺人事件が発生。金田一耕助と共に、事件に巻き込まれてゆく。美しき未亡人・森美也子、双子の大叔母、不気味な村人たち ──。誰も知らない“八つ墓”の秘密が今明かされる ──。
Index
『八つ墓村』という永劫回帰
「犬神家の一族」、「獄門島」、「悪魔の手毬唄」…。横溝正史モノは、いつだって映像作家のクリエイター魂をくすぐり続けてきた。なかでも「八つ墓村」は別格。これまでなんと、10回も映画化・テレビドラマ化されている。
1951年(映画)監督:松田定次、主演:片岡千恵蔵
1969年(テレビ)監督:渡辺成男、主演:金内吉男
1971年(テレビ)監督:安江泰雅、主演:山本耕一
1977年(映画)監督:野村芳太郎、主演:萩原健一
1978年(テレビ)監督:池広一夫、主演:古谷一行
1991年(テレビ)監督:関本郁夫、主演:古谷一行
1995年(テレビ)監督:福本義人、主演:片岡鶴太郎
1996年(映画)監督:市川崑、主演:豊川悦司
2004年(テレビ)監督:星護、主演:稲垣吾郎
2019年(テレビ)監督:吉田照幸、主演:吉岡秀隆
なぜ、これほどまでに映像化のおかわりが続くのだろう。その最大の理由は、あらゆるエンタメ要素をブチ込んだゴッタ煮感にあるのではないだろうか。連続殺人ミステリを主軸に据えつつ、三千両を巡るトレジャーハント、鍾乳洞でのサバイバルアクション、そして怨念が渦巻くゴシックロマンスまでをミックス。忌まわしい血脈や不気味な双子の老婆といった、フォークホラーとしての舞台立ても完璧と言うほかない。

『八つ墓村』©2026「八つ墓村」製作委員会 ©Yokomizo Seishi/KADOKAWA
フィクションの枠を突き破る生々しさも、理由のひとつだろう。1977年版の山崎努演じる多治見要蔵(ちなみに原作では田治見だが、この映画では多治見に改変されているのでややこしい)が頭に懐中電灯をくくりつけ、日本刀と猟銃で村人を次々と血祭りにあげていく強烈なシークエンスは、1938年に岡山県の山村で実際に起きた「津山三十人殺し」をモデルにしたもの(この事件は後に『丑三つの村』(83)として映画化された)。日本犯罪史に残る凄惨な事件を下敷きにしたことで、絵空事には収まらないリアルな情念が隅々にまで注ぎ込まれることになった。
金田一耕助のデビュー作「本陣殺人事件」も文句なしの大傑作だが、あちらは密室トリックが精巧なパズルとして完成されすぎている。論理のメカニズムが緻密であればあるほど、人間のドロドロとした感情が入り込む隙間は失われ、エモーションが薄味になってしまう。小難しい論理よりも情念、カチッとしたトリックよりもド派手なケレン味のほうが、映像メディアには相性がいいのだ。
そして2026年、ついに11回目の映像化となる最新版『八つ墓村』が爆誕。メガホンをとったのは、『呪怨』シリーズで知られる清水崇だ。だがこのJホラー・マスターでさえ、オファーを受けた当初は「荷が重すぎる」と即答を避けたという。無理もない。野村芳太郎が放った77年版のインパクトが、あまりにも強烈すぎたのだ。