2018.11.15
監督降板も乗り越えた、奇跡レベルの「クイーン」の再生
こうしたラミ・マレックの努力に加え、今回の映画にブライアン・メイとロジャー・テイラーが音楽総指揮でバックアップしたことも大きな助けになった。彼らはキャストたちに当時のメンバー同士の関係性も伝え、撮影を見守ったのである。
ブライアン役のグウィリム・リーは、「ボヘミアン・ラプソディ」のギターソロのシーンを撮影していたとき、ブライアン本人から「ギターの弦を押し上げて音階を変えるチョーキングの際に、顔をしかめて見せるといい」とアドバイスされ、そのとおりに演じた。そしてロジャー・テイラーも、自分を演じるベン・ハーディに「ドラムを特訓させるのではなく、スティックをくるりと回すなど、見た目の秘訣を伝授した」と語る。
『ボヘミアン・ラプソディ』© 2018 Twentieth Century Fox
本人の助言も後押しして、クイーンのメンバーを演じた4人は、単なるそっくりではなく、長年のファンが観ても、その関係性や空気感といった最も重要な部分を納得させる。
この映画『ボヘミアン・ラプソディ』はブライアン・シンガーが監督として撮影が始まったものの、彼が途中から現場を離れ、一時は完成も危ぶまれた。撮影の終盤と仕上げを任されたデクスター・フレッチャーは、ベン・ウィショーがフレディ役を演じる可能性があった時点で、監督に想定されていた人物である。フレッチャーは、『ダウンタウン物語』(76年)のベビーフェイス役など子役から活躍していた俳優兼監督だ(彼の次回作はエルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン(原題)』である)。
こうした監督降板劇がありながら、『ボヘミアン・ラプソディ』が文句のない仕上がりになったのは、やはりブライアンとロジャーの全面協力と、キャストたちが完全に役になりきったからであろう。とくにラミ・マレックは、今はこの世にいないフレディ・マーキュリーの魂が降りて来たと思わずにはいられない。そのことをラミに伝えると、こんな答えが返ってきた。
『ボヘミアン・ラプソディ』© 2018 Twentieth Century Fox
「僕に魂が降りて来たかどうかはわからない。でも、撮影の期間中、ずっとフレディに見られている感覚はあった。だからこそ、一瞬も気が抜けなかったし、一度たりとも運に任せようなどとは思わなかった。そして撮影の最終日、ステージでお辞儀をするラストカットで、僕はフレディの魂を近くに感じた気がする」
もしフレディの魂が存在していたとしたら、おそらく彼が愛したロンドンの自宅で、敷地内に日本庭園まで作らせた「ガーデン・ロッジ」のあたりをさまよい続けているかもしれない。しかしその魂は『ボヘミアン・ラプソディ』の撮影中、ラミ・マレックを見守り、今は映画の仕上がりに満足しているに違いない。
ロンドンの中心地から地下鉄で15分ほどの住宅地にたたずむ、フレディの自宅「ガーデン・ロッジ」。誕生日や命日には、今もこの壁にファンの献花が捧げられる。(撮影:斉藤博昭)
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
『ボヘミアン・ラプソディ』
配給:20世紀フォックス映画
© 2018 Twentieth Century Fox
※2018年11月記事掲載時の情報です。