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『ボーダーライン』神の視点を持つ監督ヴィルヌーブと鬼才脚本家テイラー・シェリダンが生み出す、虚構と現実

『ボーダーライン』神の視点を持つ監督ヴィルヌーブと鬼才脚本家テイラー・シェリダンが生み出す、虚構と現実


状況が理解できないからこその没入感



 「別の惑星でもあるかのように」と書いたが、本作のビジュアルがもたらす現実離れした感覚は、主人公であるFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)の心情ともシンクロする。ケイトは人質事件が専門だったのだが、ある捜査をきっかけに、国防総省が主導する麻薬カルテルの合同捜査チームに選ばれる。チームのリーダーは“国防総省の顧問”を自称するマット・グレイヴァーなる男(ジョシュ・ブローリン)と、その相棒だと紹介される謎めいた中南米人のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)だ。


 やがてケイトは、自分が参加しているチームが、麻薬戦争の最前線で常識外れの陰謀計画を進めている姿を目の当たりにするものの、計画の全貌がまったくわからないまま、物語が進行していくのだ。

 


  実際、ケイトが参加する最初のミッションは、防弾チョッキを着ろという指示以外はまったく何も知らされないので、観客はケイトと同じ右も左もわからない状態に陥ることになる。アメリカ国内での任務のはずがいつの間にかメキシコに入り、重武装したメキシコ警察の車両郡に先導されて、「最も麻薬戦争が激しい街」として悪名を馳せた街「フアレス」の中心部へと突き進んで行くのである。


 映画が始まって約35分、ケイトたちの車両がメキシコからアメリカに入ろうとした時に、突如、入国待ちの車列の中で銃撃戦が始まる。いや、実際には銃撃戦とは言えない。マットとアレハンドロたちは、戸惑うケイトをしり目に、麻薬カルテルの構成員と思しきメキシコ人たちに銃を向け、相手が反撃のそぶりを見せるや否や、全員を撃ち殺してしまうのだ。


 「こんな捜査は合法なわけがない」というケイトの困惑と怒りは、われわれ観客の価値観の代弁でもある。しかし一方で、麻薬カルテルのえげつない所業を知っているケイトは、「果たして自分の価値観は正しいのか? 自分の常識や信念には現状を変える力があるのか?」という葛藤にさらされる。



 ケイトは本作の主人公であるが、物語の大半を通じて“惑い続ける傍観者”であり、彼女の無力さが、前述のビジュアルと音響によってさらに際立つ残酷な演出はヴィルヌーヴ監督の真骨頂だ。ケイト=個人に、麻薬戦争=現実というレイヤーが覆いかぶさり、さらに社会、国家と取り巻くものが大きくなるごとに違うレイヤーが現れる。『ボーダーライン』とは、かくも多層的な作品なのである。



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