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『ボーダーライン』神の視点を持つ監督ヴィルヌーブと鬼才脚本家テイラー・シェリダンが生み出す、虚構と現実

『ボーダーライン』神の視点を持つ監督ヴィルヌーブと鬼才脚本家テイラー・シェリダンが生み出す、虚構と現実


鬼才脚本家シェリダンが描く虚構と現実のボーダーライン



 ヴィルヌーヴ監督だからこその本作の特徴について述べたが、実は本作のストーリーは、脚本を執筆したテイラー・シェリダンのライフワークともいえる流れの中から生まれた。脇役俳優として活動していたシェリダンは、中年に差し掛かって脚本家を志し、自らが描くべきモチーフとして「現代アメリカの辺境」と呼ぶべき地域に着目する。


 そうして生まれたのがアリゾナ州とメキシコの国境沿いを舞台にした『ボーダーライン』であり、テキサスの貧困地域を見つめた『最後の追跡』(2016)であり、また極寒の地に追いやられて生きるネイティブ・アメリカンの苦境に寄り添った『ウィンド・リバー』(2017)の三作。これらの作品群に物語的な関連はないのだが、もはや法や秩序が意味を為さなくなった苦い現実を白日のもとにさらけ出し、安全地帯にいるわれわれを不安にさせ、見せかけの“平穏”という幻想を打ち砕くパワーに満ちている。

 


 とはいえ、シェリダンはドキュメンタリーの作家ではない。例えば本作がメキシコ側の舞台として選んだシアダー・フアレスは、麻薬カルテル同士の抗争が激化したことで「世界一危険な街」と称された国境の街。劇映画では『ボーダータウン 報道されない殺人者』(2007)、ドキュメンタリーでは『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』(2013)など、フアレスの現実に斬り込んだ名作も多い。本作のフアレスは、それらの作品よりも劇的効果を狙ったシンボルとして登場しているのだ。


 本作におけるシェリダンの主題は、むしろ麻薬戦争が激化する中で、正義と悪の境界が曖昧なまま肥大したグレーゾーンにある。そのために、捜査当局と麻薬業界の繋がりや国家レベルの隠密作戦といった、ニュースでは報道されない裏面に目を向けているのだ。もはやケイトのような一個人の正義心では、ひっかき傷も付けられないほどに、事態は巨大化し複雑化しているというのが、『ボーダーライン』が提示する世界観なのである。

 


 また、シェリダンが、「陰謀論」めいた展開を描くために持ち出したモチーフは、「メデジン」という南米コロンビアにある都市と、その土地とは切っても切り離せない、史上最悪と呼ばれた麻薬組織「メデジン・カルテル」。ベニチオ・デル・トロが『エスコバル 楽園の掟』(2014)で演じたこともある実在の麻薬王、パブロ・エスコバルが取り仕切っていたことで知られている。


 しかしエスコバルは1993年にメデジン市内で射殺され、メデジン・カルテルも瓦解している。その後コロンビアのカリを拠点するカリ・カルテルの時代になり、現在は麻薬戦争の主戦場はメキシコに移った。つまりこの映画で言及される「メデジン」の存在は限りなくフィクションであり、史上最も有名な麻薬王の存在をドラマチックに引用しているだけで、決して今の現実に即しているわけではない。


 面白いのは、冷厳とした語り口に圧倒されて、われわれ観客側が、この映画の持つエンタメ性と現実を掘り起こすジャーナリズム的側面との切り分けができなくなってしまうこと。もともとシェリダンには虚構と現実の境界線を曖昧にしてしまう筆力があり、『ボーダーライン』はその最たる例と言える。そしてシェリダンは、アレハンドロを主人公に据えた続編『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』でフィクションの比重を大きくし、この世界観のさらなる拡充を試みている。



 双子のように似ていながらまったく性格の違う『ボーダーライン』と『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』を観比べることで、どちらか一本だけではわからない広がりと奥行きが見えてくると感じたので、ぜひどちらもチェックして欲しい。ストーリーが直接繋がっているわけではないので、『ソルジャーズ・デイ』を先に観てから『ボーダーライン』に遡ってみるのも一興ではないだろうか。



文: 村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



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(C) 2016 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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