第三の立役者、音楽バート・バカラック
ゴールドマンは自転車のシークエンスにまさか歌詞付きの音楽が流れるとは思ってなかったが、脱・西部劇を狙うロイ・ヒルは迷うことなく主題歌の挿入を決断。そこで、第3の立役者であるバート・バカラックが登場する。ロイ・ヒルから作品について説明された時、まるで曲のイメージが浮かばなかったというバカラックだったが、長年の相棒で作詞家のハル・デヴィッドから歌詞を渡されて、メロディラインが少しずつ浮かび始める。
「なぜか頭の上に雨の雫が落ちてくる」という、とにかくツいてない男の嘆き節とは裏腹に、ブッチ・キャシディはそんなことまるで意に介さない人物であることは、脚本を読んでよく分かっていたこと。ならば、思う存分軽妙で、若干ビターなメロディがハマると踏んだバカラックは、後に世界のヒットチャートを席巻し、アカデミー主題歌賞もゲットする名曲を紡ぐことになる。
歌を担当するB.J.トーマスが、録音当日、咽頭炎が完治しておらず、擦れ声がかえって曲を味わい深くしたという、文字通りの"怪我の功名"もあった。
バカラックは映画全体の音楽も担当し、主題歌賞とアカデミー作曲賞をW受賞している。この結果に疑う余地などない。バカラックは"雨にぬれても"を含めて、映画の中の主に3箇所、約13分間を音楽でカバーしている。これを意外に思う観客がいるはずだ。もっと音楽が鳴っていたはずなのにと。
『明日に向って撃て!』 (c)Photofest / Getty Images
しかし、実際には、"雨にぬれても"と、ブッチ、サンダンス、エッタが南米に到着するまでに流れる"The Old Fun City"と、3人が結託してボリビアで銀行を襲いまくるシーンに流れる"South American Getaway"の3箇所のみ。これは、常時音楽が流れる映画ほどダサいものはないという、ロイ・ヒルの理論にバカラックが同調した結果だ。こうして、観客はたった13分しかないミュージックシーンの貴重さを、逆に思い知ることになる。『明日に向って撃て!』と言えば"雨にぬれても"と言い切るファンが多いのはこのためだ。
しかし、筆者は、セピアカラーで綴られるモンタージュに連動し流れる"The Old Fun City"の音と絵の完璧なシンクロ、そして、強盗活劇を男女のスキャットで刻む"South American Getaway"の洗練度こそが、アメリカン・ミュージックの生けるレジェンド、バート・バカラックの真骨頂と断言したい。